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韓国史劇風小説「天皇の母」104(全部がフィクション)

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アキシノノミヤ家がどんどんスポットライトから離れていく頃、皇太子夫妻のイメージは

「可哀想なマサコ様と彼女を守る偉大な皇太子」というもので一色になっていた。

庶民がそう思っていたというより、マスコミが作り出した虚像に過ぎなかったのだが

そうでもしないと、明日にでも「不仲説」が出てもおかしくない状態だったのだ。

マサコは皇太子の趣味、登山とかクラシックとかテニスとか・・・そう言った事には全く興味がなく

結婚3年目になると無理して一緒に行く必要もないのではないかと思い、同行しなくなった。

一方で、マサコが発信する「普通の生活」というものに触れた皇太子は、まるで世界観が変わって

しまった。

生まれた時から「将来の天皇」として育てられた皇太子はわがままを言う事を知らなかった。

母にとっても父にとっても理想の息子でいる事になんら疑問を抱いた事などなかったのだ。

でも、マサコと結婚して以来「人間なんだから嫌な事は嫌だし、好きな事は好き。それを正直に顔に出して

何が悪い」と言われ、その通りに行動されると、それがひどく輝いて見えるのだ。

今まで大膳の食事に不満を抱いた事などなかった自分。

せいぜい学習院大学のカレーライスがおいしかったという印象しかない。

でもマサコは「世の中にはもっとおいしいものがあるのよ。フレイカの中華、ロジェのフレンチ。

宅配のピザだっておいしいのよ。和食なんて古臭いし若い人が食べるものじゃない」

と言い、とうとう東宮御所でピザをとってしまった程だ。

無論、宅配先は宮内庁東宮職で、そこからこっそりマサコ達の元に運ばれたのだが。

外食なんて考えた事もなかったが、マサコが「外で食べたい」といえば、なぜかそれがまかり通る。

そんな事してもよかったのだ…と思うと、皇太子は今までの人生は何だったのかと思ってしまう。

フレイカの中華は食べた事のない程おいしかったし、ホテルのフレンチは外国旅行をしたような気にさせてくれる。

そう、同じフレンチを東宮御所で食べるのと店で食べるのではこんなにも味が違うのだ。

地方へ公務へ行った時も、マサコはちゃんと名産品を覚えていて

「ここのチョコレートを2箱、買える?」と聞く。すると回りは「お金なんてとんでもございません。

献上いたします」と言って、いくつでもくれる。

マサコはそういうものをがんがん貰っては妹達に配ったりしていた。

「さすがお姉さま。皇太子妃ってすごいのね」と言われると、マサコはその時だけ

結婚してよかったと思う。そういう満足そうな顔を見て皇太子はほっとする。そんな毎日。

 

皇太子は相当な酒好きではあったけれど、特に好みを言うような事はなかった。でもマサコは

「日本酒なら〇〇の吟醸じゃなきゃダメ。ワインは・・・」と妙に詳しい。

それを取り寄せてみると、なるほどおいしい。

公務があるからと言って前日はあまり飲まないようにしているのだが、マサコはそんな事おかまいなしに

夜中まででもワインをたしなむ。

「どうしていけないの?ここは私達の家じゃない?好きに暮らしちゃいけないわけ?」

そう言われたら反論できない。

「皇太子っていう地位は偉いのよ。イギリスを見なさいよ。チャールズ皇太子はあなたより数倍は立派な

服を着て好きに外出してるじゃない?あなたがそうやっていけない事なんて何もないんだから。私達は

そういう事を許されている身分なんですもの」

そんな勘違いを助長させたのは東宮職の判断だったかもしれない。

とにかく「世継ぎ」を産んでほしい。

結婚3年目で妊娠する気配がないとなれば、普通は不妊を疑って治療を始めるものだ。

しかし、皇太子もマサコも自分達が不妊症である事を認めようとしない。

「静かな環境が必要だ」というばかり。

「静かな環境」とはすなわち、好きな時間に寝て起きて食べる・・・というような生活をさしていたのだが

東宮職はまさか、そんな事を思っているとは知らず、ただただ静養の時間を増やすばかりだった。

 

その年は8月に須崎、9月と10月が那須、11月は御料牧場と立て続けに静養期間を設けた。

二人きりで過ごす時間が増えれば自然に妊娠してくれるかもしれないという涙ぐましい希望だったのだが

マサコは「決まりきった御用邸で静養したってちっともリラックスできない」と言い放った。

「だって回りに人がいるじゃない?」

要するに女官や侍従が邪魔という事なのだろう。御用邸ではなるべく二人きりの時間を増やしているつもりだ。

しかし、警備の都合上、簡単に御用邸の外に外食へ・・・というわけにはいかないし、身の回りの世話も

あるので、全くゼロというわけにはいかない。

でもマサコにしてみれば「用事がある時だけすぐさま駆けつければいい」としか言わない。

そのうち、直接話すのも面倒になったのか、御用邸でも東宮御所でも用事がある時はドアの下から

紙を出すという事をやり始めた。

皇太子は「そういうやり方があったのかあ」と新鮮な気持ちになった。

皇太子だって時には内舎人や侍従の存在がうるさく感じる事があった。

ハマオ侍従なんて始終自分のそばについてああだこうだと口うるさく言っていたっけ。あの時、マサコの

やり方を知っていたら、どんなに楽だったことか。

要するに世間をよく知っているマサコのセリフは皇太子にとってまるで神からの啓示のように見えたのだった。

那須の御用邸では、マサコは近くのレストランにご贔屓を見つけたらしく、足しげく通うようになった。

勿論、その時は貸切である。さらに土産物屋でどうでもいいようなものを買いまくったり。

そういう事をしている時のマサコは非常に楽しそうだったので、皇太子は何も言えなかった。

 

立て続けに静養を入れた事で、本来なら「公務を頑張ろう」とか「両陛下に申し訳ない」とか

そう思ってもいい筈なのだが、マサコは「余計にプレッシャーがかかった」と言っては怒り

「自由がない」と言っては癇癪を起す。今すぐでかけたい。5分後には出たい。なのに回りは

警備の都合上、せめて半日前に予定を組んでほしいという。そういう事がマサコには我慢ならなかったのだ。

好きな外食も頻繁になれば東宮女官長や侍従長などから「少しお控えに」と言われる。

その度に「一体、あなたたちは何様なの?誰に向かって話をしているわけ?」と怒鳴る。

怒鳴れば誰も何も言えなくなる。

そういう光景を目にした皇太子は、こんなやり方があったのかとまた感心する。

今まで、誰かを怒鳴ったり叱りつけたりすることなどなかった。

そんな事をしたらすぐにハマオに「殿下、上に立つべき人のなさるべきことではありません」と叱られる。

でも現実に目の前でマサコは怒鳴り、怒り、回りは恐縮して何でも言う事を聞く・・・それを見てしまっては

自分が今まで我慢してきたことが全部無駄だったのではないかとおもうのだ。

 

「おじいさま!」

秋のある日、久しぶりに帰国したオワダ夫妻とユミコの両親であるエガシラ夫妻が東宮御所に集まった。

マsカオは祖父が来てくれた事がよほど嬉しかったらしく、大膳に命じて特別のフレンチを出した。

チッソの会長として辣腕をふるい「庶民がくさった魚を食べたから」とミナマタ病患者に言い放った男も

現在は88歳になろうとしている。

一銭を退いても相談役として残り、今や皇太子妃の「祖父」である。

歩くのが大変なので、車いすを使う。東宮御所の秋の風景は非常に美しかった。

「いやいや・・・マサコとこんな風に東宮御所を散歩する日が来るなんて」

とユタカは目を細めた。

「長生きはするものだ。なあヒサシ君」

ヒサシも満足そうに笑った。

「わしは今や国連大使の義父で皇太子妃の祖父だよ。思えば長い道のりだったなあ。チッソの件では

どれ程屈辱を受けたかわからない。私には何の罪もなかったのに。そんな屈辱を恨みをマサコが一人で

はらしてくれたんだよなあ」

「その通りです。マサコは親孝行者ですよ」

「ねえ。もう少しワインをいかが?チーズも極上のを揃えているのよ。私が直接選んでいるんだもの。

これなんて滅多に手に入らないものなの。おじいさまの為なら何だって揃えて見せるわよ」

マサコは上機嫌だった。

「うんうん。やっぱり皇太子妃というのはすごい地位なんだなあ。妃殿下。わたしは嬉しいですよ」

そしてマサコの横に飾り物のように立っている皇太子に笑いかける。

「うちのマサコは本当に昔から親孝行でいい娘だったんですよ。どうか殿下、この先もよろしく」

「ええ。お任せください。おじいさまももっと頻繁に東宮御所にお出かけください。そうすればマサコも

寂しくないでしょうし」

皇太子もにこやかに言った。

するとマサコが「泊まっていけばいいのよ。部屋はいくらだってあるんですもの」と言い出した。

さすがにそれは・・・と皇太子は微妙な顔をしたがマサコはおかまいなしだった。

「でも東宮御所って段差が多いのよね。家具も古臭いし。バリアフリーにすればいいのよ」

「それはいい考えだな。どうでしょうね。皇太子殿下」

ヒサシも頷いた。

え?と皇太子は言い「バリアフリーってなんですか?」と聞いてしまった。

「やあね。段差がない床の事よ。段差がなければ車いすだって自由に動けるでしょう。おじいさまがいつでも

泊りに来られる部屋を作って欲しいの。それくらい出来るんじゃない?」

「どうだろうね・・・」

思わず、侍従長を見る。侍従長は真っ青になっていた。ここでおかしなことを口走ればマサコが

機嫌を損ねて怒鳴り始めるかもしれない。かといってエガシラ家の為に東宮御所を改装するなんて・・・・

「そういう事は宮内庁の予算の範囲内で行われるもので」

「では私にお任せ下さい。外務省を通じてさっそくかからせますから」

ヒサシは声を出して笑った。皇太子思わずも「それはありがたい事ですね」と言ってしまった。

「皇太子殿下。殿下が色々となさりたい事は私達がかなえて差し上げますよ。何といっても皇太子殿下は

将来の天皇なのです。叶わないものなどないのです。そしてそれを叶えて差し上げるのが我々

外戚の仕事です。殿下が肩書が欲しいとおっしゃれば用意しますし、行きたい場所があれば行かせて

差し上げますよ」

「本当に・・・・」

皇太子は思わず目を大きく見開いた。脳裏に弟の姿が浮かぶ。

そういえば弟は成人と同時に動物園の総裁だの・・・いくつもの名誉総裁の肩書を持っている。

博士号も貰ったらしい。皇位継承者の自分とは違って働かなくてはならない身分なんだからと

思ってはいたけど、何となく世間的に弟の方が頭がいいと思われているのではないかと不安になった。

本来、何でも弟よりは特別な筈の自分が、どうしてこんな風にコンプレックスを感じるのかまだわからなかった。

でも、望めば・・・いつか弟より多くのものを望めば叶うというなら・・・・

皇太子は全幅の信頼をヒサシに向けたのだった。

 


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