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韓国史劇風小説「天皇の母」106(完全なるフィクション)

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カマクラ宮内庁長官が天皇に呼ばれて参内したのは夜遅くなってからだった。

今上の御代になっても先帝の意向は守らなくてはならない。

また、皇室そのものの伝統もきちんと受け継がれているか、長官や式部職などを通じて

意見を聞く必要があった。

戦前の宮内庁と違って、今は各省持ち回りの宮内庁職員にとって「皇室」とは単なる職場であり、

絶対に守るべき場所であるとか、崇敬の念を抱くとか、そういった感情からは離れつつあった。

とはいえ、直接天皇や皇后と出会った人々は100%心酔し、何が何でもお尽くし申し上げようと思うのであるが

とにかく仕事自体はかなり官僚的で事務的になりつつあった。

そんな中、カマクラは珍しく戦前の宮内省を思わせるような忠義ぶりを貫いている。

彼にとって一番大事なのは「皇室の尊厳を守る事」であり、それゆえ、時には皇族方に苦言を呈す事もあった。

そんなカマクラだったからこそ、天皇の信頼も絶大だった。

カマクラは最近の公務の割り振りになどについて報告をし、さらに外国との付き合いなどについても奏上。

話は短く終わるかに思えた。

一通り報告を終えて、カマクラが立ち上がろうとしたとき、

「皇太子夫妻に子供はまだ出来そうにないかね」と天皇が尋ねた。

カマクラはあらためて椅子に座る。

「何か身体的に問題があるとか、そういう事について二人はどう考えているのだろう。私がみる所、

どうにも夫妻の気持ちがまとまっているようには見えないし、世継ぎの重要性についても考えているようには

見えない」

「その事について、マスコミなどについて宮内庁がひどく言われている事もしっていますよ」

皇后も言葉を挟む。

「日々、陛下の為、皇太子夫妻の為に骨身を惜しまず働いてくれているのに、あの書かれようはどうかと。

申し訳なく思います」

「あの書かれよう」というのはもちろんマサコの事だった。

ニューズウイークが「消えたお妃」とか「不幸な妃」と書き立ててから、日本のマスコミも追従するようになった。

すなわち、マサコ妃のような優秀なキャリアウーマン、入内前は「スター」だった女性が皇室に入った途端

皇太子の散歩後ろを歩くようになり、どんどん存在感が失われている。

その原因は旧弊な宮内庁が「お世継ぎ」を期待するあまり、公務をさせない、行動に規制をかける・・・というようなもの。

東宮職が「静かな環境を作る為」に用意した数か月にも及ぶ「静養」に対しては

「キャリアウーマンに仕事をさせない」とくるし、外国訪問が予定されない事に関しては「世継ぎ優先のいじめ」

だというし、そうかと思えば「忙しすぎる皇太子夫妻」と銘打って、地方公務を揶揄するような動きを見せる。

どんな記事も〆は必ず「旧弊な宮内庁がマサコ様を絶望させている」というものだった。

それらの記事に関してはカマクラも知っていたし、職員も無論、知っているが、傷つくというより事務的に

「書かれちゃったなあ」程度の感想しか上がってこない。いいのか悪いのか、今時の職員は自分の仕事にそれほどの

プライドを持っているわけではないようだった。

それだけに、皇后に謝られてカマクラは恐縮した。

「どうしてあのような事を書かれるのか。世継ぎ問題が旧弊な事なのか?」

天皇は本当にわからないという顔で訴えてくる。

自分が生まれるまでにどれほどの苦労があったかは知っているし、ゆえに自らはすぐに子供をもうけることが

至上命令ととらえていた。

しかし、皇太子夫妻はどうもそうではないようだ。

「本当の所、どうなのだ?」

「東宮大夫の話によりますと、お世継ぎに関する話は東宮御所ではタブーのようです」

「なんだって?」

天皇は驚いて皇后と顔を見合わせた。

「女性に出産を強要するのは差別だと妃殿下がおっしゃって」

「強要?」

「はい。夫婦がいつ子供を持つか、あるいは持たないかというような事は夫婦間の問題で、他人がとやかく

言うべきことではないという事なのです。また妃殿下は皇室外交をする為に皇室に入ったにも関わらず

外国に行けない事に対して非常にお怒りです。日本では阪神大震災が起こったばかりですし、経済状況も

世界的に決していいわけではありません。ひところのように王室同志が各国を訪問して歩く・・・というような

事はあまりございません。日本としては招待がなければいけないわけで。それを妃殿下は、自分に意地悪を

しているのではないかとお疑いで」

「何という事だ・・・私にはわからないね。一体何を言ってるのかさっぱり。何で世継ぎを産む事が差別だとか

強要だとか言われなくちゃいけないのだ?」

「男系男子しか天皇になれないのは差別だという考え方です。日本は男女平等の筈なのに。そういうお考えですから

妃殿下は皇太子殿下をお敬い申しあげているようには見えません。ほんの少しの事ですが、数歩後ろを歩くとか

殿下には頭を下げるといったような事がですね、その時は仕方なくおやりになるのですが、心の中では「なぜこのような

事を?」というお怒りのようなものが渦巻いておりまして。そういう事が東宮御所では言動になって現れるという事で」

「外国に行けない事がいじめというのは?」

「皇室外交というのは、外国に行くだけではなく外国からの賓客をおもてなしすることもお仕事ですと申し上げました。

頭ではおわかりになっているんですが、感情的に納得出来ないご様子です。ダイアナ妃とかクリントン大統領とか

有名な人が来れば大喜びで出席なさいますが、発展途上国の要人の場合は・・・・また地方公務も妃殿下には

意義を見出せないとおっしゃって」

「妃教育はしているんだろうね?皇后はもう一度教育するべきではないか?」

皇后は「申し訳ありません」と頭を下げた。

「私の方からもう一度よく話をしてみましょう」

「それはおやめになったほうが」

カマクラは言葉を濁した。

「どうしてだい?」

「恐れながら、マスコミに筒抜けなのでございます。ここでもし皇后陛下が直接皇太子妃殿下に何かをお諭しになったら

それこそ「皇后陛下のマサコ様いじめ」として報道されるかもしれません」

「そのいじめという概念なんだが。教えられたり諭されたりする事の何がいじめなのか?」

「マサコ妃殿下は自己主張の強い方でございますし、ご自分の価値観にこだわりをもっていらしゃいます。それを

否定されると非常にお怒りになりますし、泣かれますし。ゆえに皇太子殿下もご注意なさらないと」

「な・・・」

天皇は色を失って立ち上がろうとした。

「そんな心がけでどうする!皇室の意義を何もわかっていない。おまけに皇太子がきちんと妻を教育出来ないって?」

「あの。お言葉ですが陛下。私達から見れば皇太子殿下が上でマサコ様は下に位置しますが、ご夫妻はお互いが

対等と思っておられます。それが今時の考え方なのでございます」

「アキシノノミヤはそうじゃない」

「アキシノノミヤ様はご結婚されて随分変わられました。キコ妃殿下が非常に皇室に適応されておいでですし

しきたりや伝統などを意欲的に吸収なさろうと努力しておいでです。いい意味で宮様は妃殿下に影響を

受けておいでです」

「皇太子夫妻の方が現代的という事ですね」

皇后が言った。

「民法では夫婦は対等と定められておりますし、皇太子妃は外務省で働いておりました。男女雇用機会均等法

によって男女平等の考え方を持っているのです。それは間違っているとは思いません。共に手をたずさえて

新しい公務を切り開くというのは皇室にとって必要な事かもしれませんし、今の所、国民はそれを

好意的に受け入れているようですしね」

天皇とカマクラは黙り込んだ。

「アキシノノミヤは皇太子を補佐する立場です。現代的な皇太子夫妻に対して保守的な宮家というのは

ある意味バランスがとれているのかもしれません」

「しかし、現代的というのは危険ではないか?皇室などいらないという議論にもつながるかもしれない」

「皇太子妃はまだ入内して3年ですから。いきなりアキシノノミヤ妃のようにはなれません。学生の身で結婚した

キコと違って、マサコは働いていたのですから。皇室というものの存在意義や守るべきしきたり等については

辛抱強く東宮職なり宮内庁が教えていくしかないでしょう。皇太子には私からそれらの諫言を受け入れるように

申しましょう」

「うん・・要は皇太子だな」

「はい。でも皇太子は将来の天皇になる方ですから、皇室における公務やしきたりや伝統の重要性については

誰よりもよくわかっているでしょう。私はそう信じています」

「・・・・そうかな・・・・しかし、世継ぎは・・・遠慮しているアキシノノミヤの方にも」

「今、マコとカコで手一杯で数年あいたからといってどうという事はありませんよ。陛下、お心を煩わせる事はございません。

きっと皇太子妃はわかってくれます」

そこまで言われては天皇もカマクラも何も言えなかった。

というより、カマクラは大きな失望を心に抱えながら部屋を出たのだった。

 

(やっぱりねいずれこうなると思っていたのよ)

誰?皇后は振り返った。誰の声なの?聞き覚えのある声。でもまさか。

(だから反対したのです。庶民の血を入れてはいけないと言って。それなのに時代が許してしまったから。

今もあの時、反対した事は間違っていなかったと思うわ。皇族にとってもっとも大事なのは血筋です。

家柄です。血筋と家柄の中で人は育ち価値観を植えつけられるんです。どんなに努力したってあなたは

結局は皇族でも華族でもない。だから大元の所で皇室を理解していないし、だからあんな嫁をめとったのです)

「やめて下さい。皇后さま」

皇后さま・・・・と叫んでミチコははっとした。皇后・・・現皇太后は大宮御所で認知症のまま日々過ごしている筈。

あの時、自分の結婚に大反対した皇太后、チチブノミヤ妃、タカマツノミヤ妃一派。

「お育ちが違う」と言われて何十年。その度に唇をかみしめて耐え、より皇太子妃らしくあろうと血のにじむ苦労を

してきた。育ちを超えるもの。それは知識であり技術であり才能だと思った。

民間から嫁いだキコモマサコも同様だ。

だが、チチブノミヤ妃はキコを異常に可愛がった。同じ会津の血を引く娘として。それもやはり「血」

「血筋を超えたものがある筈です。私はそう努力してきました。国民は私の味方よ」

(だったらなぜあんな嫁を迎えたの?そしてどうしてあなたは嫁を教育できないの?ヒロノミヤはあなたにとって

心の支えだったわね。あの子はあなたの心の中に渦巻く恨みや悲しみを一身に受けて育った。

だから私にも懐かなかったし、反抗的だったし。手をかけすぎたのね。アヤノミヤとノリノミヤは適当に育てたから)

「適当ではありません。ノリノミヤには皇女としての心得を教えてきたつもりです」

(そう?必要以上に地味に質素になってしまった可哀想な娘。もう27歳だというのに、婿候補が一人もいやしない。

内親王なら引く手あまたの筈なのにどの名家からも拒否されているのではなくて?その点、アヤノミヤは賢かった。

自分を補う結婚相手をさっさとみつけて行動に起こしたのだから。お上の喪中だったなんて悪口を言う人が

いたようだけど私は全然そうは思っていなかったわ。お祝いごとは嬉しいもの。なのに執拗にそういう型を押し付けようと

する輩。それこそが「お育ちが知れる」というものなの。さあ、どうするの?あの嫁を)

「私が何とかいたします」

(どうやって?あの嫁は一度も私に会いに来ないし、先帝のご陵にも行かないわ。そもそも先祖というものへの

思いがないの。そんな娘が次の世代を作りたがると思う?今、自分が存在しているのは何千年もの命の営みがあったから。

それを思えば簡単に私は産まないなんて言える筈がない。あるいは自らが産めないなら誰かに託す。それが

代々の妃の役目です。なのにあの嫁はそれを理解しないだけでなく否定している。それを許したのは皇后である

あなた。あなた自身が自由とやらを知っているからじゃないの?私のようなものには何だかわからないけどね)

ミチコは「誰だって自由が欲しい筈ですわ」と叫んだ。

「でも皇族である以上、義務を果たす事が最優先ですし」

(その義務という考え方が皇族らしくないというのよ。義務じゃなくて当然の事なの。やらねばと肩ひじ張って

考えるものじゃないの。だからお育ちがねえ)

高笑いが聞こえる。

(ああ・・・お上に何とご報告しようかしら。孫の代で皇室が終わるなんてね)

「終わらせません。絶対に」

(ふうん。女帝とやらを認めるの?)

「それは・・・・」

ミチコは言葉を失った。

(まあいいわ。お手並みを拝見ね)

声はそこで聞こえなくなった。

 

「陛下。皇后陛下」

気が付くと女官長が目の前で心配そうな顔をして立っている。椅子に座ったままうとうととしていたようだ。

「陛下。侍医をお呼びしましょうか?」

「いいの。大丈夫」

そして立ち上がろうとしたとき、皇后はちょっと咳こんだ。

 

 


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