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韓国史劇風小説「天皇の母」109(運命のフィクション)

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「フランスはノリノミヤ」

マサコはわなわなとふるえ、目の前のコップを投げつけた。それは壁にあたって砕けた。

その様子を見ていた女官は怯えて後ずさる。

「人を馬鹿にしているの?嫌がらせなの?」

女官達は無言で割れたコップを掃除しにかかる。女官長は言葉もなく控えている。

「ご懐妊の可能性があるので、出来るだけ国内でお過ごし頂きたいと」

東宮大夫は必死にカマクラの言葉を伝える。

まさか、精神的に不安定でプロトコロルを無視するような行動ばかりする妃に皇室の親善を

任せるわけにはいかないと判断した・・・などとは口が裂けても言えなかった。

「そんなものする気はないわよ。誰が」

マサコの言葉に東宮大夫は言葉を失った。東宮大夫だけではない。女官長も顔色を失い呆然としている。

「私は子供を産むために皇室に入ったんじゃないわよ。皇室外交をする為なの。なのに、ただ座っているだけとか

にこにこ笑って手を振るだけとか、そういうやりがいのない事をしたくないと言ってるのよ。わかる?」

「しかし、皇太子妃の重要な御役目にはお世継ぎが・・・」

「誰もそんな事言わなかったわ」

大夫の言葉をさえぎる。

「誰も子供を産めなんて結婚前には言わなかった。お父様もお母様も・・・両陛下だって。

それなのに結婚した途端にそういう事を言われるのって何で?私、騙されたの?」

何と説明したらいいのか大夫はわからなくなった。

一組の夫婦が生まれる。当然、子供の誕生を望まれる。そんな事をわざわざ口にする舅や姑はいない。

無論、花嫁の両親だって同じだろう。それをマサコは

「言われていないから知らなかった」と主張しているのである。

それならいっそオワダ家に説明してもらおうか・・・とも思ったが、ただでさえ頻繁にやってくるオワダ夫妻に

これ以上東宮御所に来て欲しくなかった。

まるで、自分が皇族になったかのように振る舞うマサコの両親の評判がいいわけないのだ。

「皇太子妃殿下の重要な御役目にはお世継ぎを産むという事がございます。歴代の皇后さまはそれを

果たしてこられました。またご自分にお子がない場合には側室のお子をご自分のお子としてお育てになりました。

それがタイショウ天皇でございます」

「ナルに浮気しろというの?」

マサコは思わず言ってしまった。人前では極力「殿下」とか「皇太子さま」と呼んでいたのだが、

プライベートな時はいつのまにか「ナル」と呼ぶようになっていたのだった。

その言いように誰もが聞こえないふりをする。

「妃殿下はまだお若いのですから、これから自然に・・・・」

「お父様に電話するから」

マサコはすっくと立ちあがった。

「今回の事、絶対に忘れない。私を馬鹿にした事、絶対に忘れないわ。カマクラ、今にみてなさいよ」

吐き捨てるように彼女は言った。

 

新しいアキシノノミヤ邸は、元はセツ君の館で、今までに比べて非常に広く、ゆったりとしていた。

今まで屋敷が狭い為に事務官と侍女を最低限の人数しか雇う事が出来なかったが、もう少し増やせそうだ。

が、何もかも宮廷費で賄われる東宮家と違って、宮家の場合は皇族費の中で何もかもやらなければいけない。

キコはやりくり上手の為、職員を増やすのではなく、自分の仕事を増やした。

子供達の服も手作りで、なるべく出費を抑える努力を始める。

新しい宮邸では犬や鳥、うさぎにねずみなど、沢山の生き物が飼われ始めた。

それはひとえに宮の趣味と仕事であったが、そのエサ代はばかにならない。

動物達を飼育する為の環境づくりにもお金がかかる。

それをキコはため息をつきつつも文句を言わなかった。

子供達の情操教育の為にはいい事なのだと自分を納得させて。

勿論、エサやりだの世話だのは宮もやってくれる。そこらへんは非常に強力的ではあったのだが

今一つ無頓着な部分もあり。わりとのんきなキコにとってはいい配偶者なのかもしれないが、

結果的に毎月の生活が圧迫されている現実は変えようがなかった。

 

今日もきょうとて、キコ妃は自ら庭の草取りをしている。

いい天気だった。朝の空気はおいしい。赤坂御用地の空気は都会のオアシスだ。

東京にいながらこのような環境に住まわせて貰っているだけでも感謝しなくてはならない。

「妃殿下、そのような事は私が」

侍女が駆け寄ってきた。

「いいのよ。あと何日かしたら皇后陛下がいらっしゃるわ。そしたら庭をお見せしたいし。

あなたたちも準備で大変でしょうし。それよりノリノミヤ様は?」

「はい。今、お起きになられて」

「わかったわ。じゃあ、急がないとね」

キコは大急ぎで宮邸に戻り、そのまま台所に向かった。

宮邸の食事は専属の料理人が作る。

大膳課のように大がかりなものではないが、キコがメニューを作り、予算を与えきっちりとその通りに作って貰う。

宮家といえば一見、毎日贅沢をしているように見えるが、その実は非常に質素なもの。

倹約はまず食費から・・・というのは庶民も宮家も同じだった。

台所ではすでに朝食の準備はすすんでいた。

昨日からノリノミヤが泊まりに来ている。野鳥の観察の為に赤坂御用地内の宮邸が近いからだ。

朝食がすみ次第、観察の為にでかける予定だ。

ノリノミヤはすでに着替えを終えて、マコやカコと楽しそうに遊んでいる。

「ねえね、ねえね、ご本を読んで」

「ねえね、ねえね」

マコやカコにとってノリノミヤは「叔母」である。母と3歳しか違わない。

なのに、「ねえね」と呼ぶ。二人にとっては参内するたびに自分達の相手をしてくれる宮は楽しい遊び相手だ。

その「ねえね」はせがまれた通り、カコを膝に乗せマコを横に座らせて物語を読み始める。

アキシノノミヤはすでに研究室に出かける用意をしている。

ノリノミヤが勤めているヤマシナ鳥類研究所の総裁である宮は、定期的に会議に出席するのだ。

「鳥の研究は楽しいの?」

宮はネクタイをしめながら聞く。

「そうねえ。鳥は大好き。でも野鳥よ。お兄様みたいに鶏じゃないわよ。天草大王は私、苦手。

鳥は小さくてかわいい方が好きだわ」

「鳥より誰かいい人いないのか?」

「またそのお話」

「心配だから言ってるんだよ。すこしは僕達の「さんまの会」に来なさい」

「はーい」

そこにキコが台所から出てくる。

「サーヤの好きなハムエッグよ。オレンジジュースもあるわ」

「ありがとう。お姉さま」

宮は本を読むのをやめて、マコやカコと一緒にテーブルについた。3人が並ぶと叔母と姪というより

姉妹のようで、キコはちょっと笑った。

みなが食べ始めてもキコは食卓に着かず、台所に引き換えす。

「お姉さま、はやくいらして。あとは私がお手伝いするわよ」

「いいの。待って」

キコが次にダイニングに現れた時には2段重ねの重箱を持っていた。

「これ、お弁当ね。お昼に食べて頂戴。おいしくないかもしれないけど、私が作ったのよ」

「まあ」

ノリノミヤはふたをあけてびっくりしたように叫んだ。

色とりどりのふりかけのご飯に鶏肉の焼いたもの、煮物やら果物屋ら、ところ狭しと入っているのだ。

「ずるーい。ねえねばっかり。マコも」

マコが羨ましそうに言った。

「マコちゃんはいつも幼稚園に持って行っているでしょう」

とキコがたしなめる。

「そうよ。今日はねえねの番」

ノリノミヤは嬉しそうに重箱のふたをしめて、包みなおした。

「ありがとう。お姉さま。こんな心遣いをしていただいて。本当に感謝しています」

「そんな・・残り物よ。私、お料理はあまり得意じゃないし」

「焦げてないだけいいかな」とアキシノノミヤがちゃちゃを入れた。

「お兄様。お姉さまみたいなお妃を貰って伊勢の神様に感謝なさいよ。もし、お姉さまをいじめたり

したら私が黙っていないから・・・それにしても」

とノリノミヤはため息をついた。

「どうしたんだい?」

「実はね、最初に東宮御所に泊めて欲しいと言ったの。東宮のお兄様はマサコがいいならっておっしゃって

くれたんだけど、東宮妃がダメって。あの方、東宮御所に私達が入るのをひどく嫌がるの。

先日も両陛下がテニスの為に着替えに寄りたいとおっしゃったら、お断りになったのよ。

あそこには妃殿下のご実家が頻繁に出入りしているというし。何だか釈然としないのよね」

「東宮御所なんかに行かなくていいよ。こっちにおいで。兄様は今、あちらで手一杯だから」

「それもよくわからないけど・・・何がどう手一杯なの?東宮のお兄様、ご結婚以来あまり幸せそうじゃないわ。

どんどん無口になられるし、肝心な話題が出るとすぐに逃げておしまいになるし。

あんなのが結婚生活なら私はしたくない」

それ以上は子供達がいるので、ノリノミヤは言葉を慎んだ。

「ごめんなさい。おもうさま達の前でもこういう事は言えないの。ちょっとストレス」

「いいのよ。いつでもこちらにいらっしゃい」

「ねえね、毎日お泊りして。一緒にお風呂に入って頂戴」

マコが笑顔で言うと、カコも「ねえね」と言った。 

 

のどかな風景の宮邸。

しかし、外の世界はそういうわけにはいかなかった。

アキシノノミヤケにとってこれが最後の平和だったのかもしれない。


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