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韓国史劇風小説「天皇の母」114(いかにもフィクション)

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その年の3月、東宮御所の改築が終了した。

たった4年やそこらでの改築は例のない事だったが、東宮御所はバリアフリー化され、その費用には8億もかかってしまった。

それはひとえに、年老いたマサコの祖父、エガシラを迎える為のものであったのだが、

それでもヒサシは不機嫌な様子でイライラしていた。

国際司法裁判所への転任がマスコミに漏れた為になかなかうまく運ばない。

おまけにマサコがなかなか懐妊しない。

マサコの懐妊を望んでいるのは天皇だけではなかった。誰よりもをれを望んでいたのはヒサシの方だったのだ。

「努力はしております」

皇太子は会う度に意味のわからない微笑みを浮かべて照れたようにいう。

そして、その笑顔を見る度にヒサシは「馬鹿かこいつは」と思ってしまうのだ。

「コウノトリはなかなか機嫌が悪くて」

皇族特有の間接話法か?それも馬鹿馬鹿しい。

皇族たるもの、コウノトリの機嫌をとってどうするというのだ?

せっかく不妊治療をしようという医者の言う事も蹴ったらしい。そうする事が男らしいとでも?

確かにマサコはわがままだ。わが娘ながら頑固で困る。

結婚に至るまでもごちゃごちゃと反抗し続けたが、やっと結婚したというのに、子供に恵まれないとは。

子供を産まなければ、男子を産まなければ自分の野望は半分も達せない。

そして子供のいない妃もまたみじめな存在なのだと、何度言い聞かせればいいのか。

「私は皇室外交をしに結婚したのに、なぜそれ以外の事を望むの?」

マサコの答えはいつもこればかり。

外務省という後ろ盾があってこそ「皇室外交」などというものが存在するのであり、マサコはその恩恵を

十分に受けた。もし、あのまま外務省にいたならそれも可能だっただろう。

しかし、今は皇室。

いくら回りを子飼いで固めようとしても一足飛びには無理だ。

宮内庁にはカマクラがいる。その他、保守派もまた多いのだから。

彼らが「世継ぎ」の誕生を望むあまり、皇太子夫妻に海外への道を閉ざしている事は確かだ。

だったらそれを「人権無視」だと訴えればいい、そして着実に「女帝」を認めるように社会に働きかける。

世の中はジェンダーフリー。男女雇用機会均等法がある。

女性も男性と同等の地位が保証されて当然の世の中なら、皇室のように男子のみに皇位継承権があるのは

男女平等の精神に反する。そのような旧弊で男尊女卑の皇室を責め続ければ、マサコも気が楽になるだろうと思い

海外のメディアを使い、大々的にキャンペーンを貼ってきた。

「不幸な妃」

「かごの鳥」

「閉じ込められた妃」などなどショッキングな文言を並べ立て、独身時代はあんなにも生き生きとして美しかったマサコが

結婚後は意気消沈している。それは「世継ぎ」のプレッシャーによる「本来の仕事である皇室外交」が出来ないからだ・・・と

そういえばいいのだ。

そこまでして助けてやっているのに、それでも不妊治療を拒むとは。

「しかし、殿下、このままお世継ぎが出来ないのは問題です。無論、我が娘の不徳の致す事とは思いますが」

「いえいえ。そんな」

「最近では男性にもいろいろ問題があって妊娠しにくいというような話も聞きますよ」

その言葉に皇太子はぽかんとヒサシを見つめる。

「え?そうなんですか?」

「ええ。昔はそういう事を調べるすべなどありませんでしたから、不妊は全部女性のせいだと言われていましたがね。

まあ、男がそういう状態になるのは大きくなってからおたふく風邪にかかった事がある・・・というような具合で」

「おたふく風邪ですか・・・小さい時にかかりました」

「殿下、殿下がそうだと申し上げているわけではありません。ただ、殿下の叔父君も大叔父君方もお子様に恵まれなかった

という事実がございますし、まあ皇室の血というのは本当に古くて濃くていらっしゃるから」

皇太子は言葉を失った。一言も言い返す事が出来ない。

「僕の責任かもしれないんですね」

皇太子はうなだれた。隣のマサコはそれを慰める風でもなく、無関心といった感じで聞いている。

「マサコ・・いや、妃殿下、きちんと皇太子殿下にお仕えしているのですか。殿下の妻としての役目を果たす事こそが

妃殿下の御役目なんですよ」

「はい。わかっています」

マサコは一応神妙な顔をして答えるが、それほど胸に響いているとは思えない。

「とりあえず、調べてですね・・・一度はそういう検査とか治療とか、受けるべきでは?」

ヒサシの言葉に皇太子夫妻は顔を見合わせた。

「そうはいってもお父様、私はどうしても海外で仕事をしたいのよ。結婚してから外国へ行ったのって中東だけよ?

そんな約束じゃなかったじゃないの。この間のフランスはノリノミヤに決まって、その後のドイツもアキシノノミヤに

なったわ。宮内庁の奴、いやでも私達に海外に行かせない気なのよ」

「それはどうにかするから・・・いや、しますから、早く世継ぎを」

「お父様も宮内庁と同じなのね」

マサコはぶんむくれにむくれてぷいっと横を向いた。そんな妻に頭があがらない皇太子。

それでも、その年はノルウェーからホーコン王太子とスペインのフェリペ王太子がやって来たので

マサコは上機嫌で接待役に回り、フェリペとは「熱い抱擁」まで交わしてしまったものだから、週刊誌にでかでかと

書かれる始末。

週刊誌を全部買収出来るものではない。どうしてこうも行動が軽いのか。こっちは尻拭いしてやっているのに。

「私だってね、殿下。孫の顔が見たいのですよ。両陛下にはすでに2人もお孫様がいらっしゃるが、こちらはまだ一人も。

そういう親心をもわかって頂かないとね」

「はい・・・・」

皇太子は曖昧に答えた。

そんな婿を見、てヒサシはさらに苛立つ。この男は皇太子という地位を抜いたら何にも残らない。

頭も悪い、見た目も悪い・・・自分が女でもこんな男は嫌だと思う。

しかし、彼が持つたった一つの「皇太子」という肩書は何者にも代えがたい価値がある。

その血を受けた親王を自分の手にする為には、エレファントマンとだって寝るさ。

下世話な事を考えつつヒサシはマサコをにらみつけた。

睨まれたマサコはふてくされたようにぷいっと横を向いた。

 

問題なのはマサコの事だけではなかった。

「セっちゃんが結婚したいっていうのよ」とユミコが切りだしてきたのだ。

「結婚?誰と?」

「シブヤっていう人よ。ハーバード大で知り合ったんですって。お医者様なの」

「ハーバードか・・・・それならまあ・・しかし、医者とは」

「医者はダメなの?」

「ダメじゃないが・・・権力者に必要な3人の友人のうち二つは弁護士と医者だ。その一人がセツコの夫だと

いうならそれはそれでいいさ。要はどんな医者かという事だ。勝手に決めおって」

「だってセっちゃんだっていい歳よ。一々親に言わないでしょ」

「あいつはどうもつかみどころがない。従順でもないし反抗的でもない。自己主張がないように見えて突如

こういう事をやらかす」

「やらかすなんて。おめでたい事じゃないの」

ユミコは何が不満なの?という顔をする。

セツコは帰国子女枠でどうにか東大に押しんだものの、当時から男がいた。ハーバードに留学したのはいい。

その後、ホンダに勤めたのにちょっと叱られたくらいですぐにやめ、突如「翻訳家になりたい」などと言い出す始末。

そしてまた東大に入りなおすという・・・何とも奇妙な人生を歩んできた。

どこか気まぐれで飽きっぽくてとりとめのない。そんな娘が結婚?

「レイコにはこっちから相手を探さなくちゃならんな」

ヒサシはぼそっとつぶやいた。

 

数か月後、ニューヨーク在住のシブヤケンジがセツコと共にオワダ邸にやってきた。

年齢はほぼ30.なかなかハンサムだし、仕事も出来そうだ。

「お父さん、セツコさんを頂きにあがりました」

型どおりの挨拶。しかし、ヒサシはこの男が「皇太子妃の妹」という娘の立場に目がくらんでいる事を

すに察した。

「身辺整理はすんでいるのかね」

「お父様!」

セツコが声を荒げる。せっかく目出度い報告をしに帰って来ているのにいきなりそういう言い方をするなんて。

「ケンジさんは清廉潔白な人よ。いい人なんだから。ハーバードを出てお医者様でこれからだってアメリカに住むわよ。

何が不満なの?」

「男というのもは30年も生きていれば色々あるさ。なあ?シブヤ君」

「は・・・はい」

シブヤは冷や汗をかいている。

「娘のどんな所が気に入ったのかね」

「はい。非常に頭のいい人で賢くて何でもはきはきものを言う人で」

「皇太子妃の妹・・・」

ヒサシの呟きにシブヤは黙った。

「何よ。お父様。どういう意味よ。お姉さまの事は関係ないでしょ。ケンジさんはそんな人じゃないわよ」

セツコは叫んだがヒサシは意に介さない。

「セっちゃん。少し落ち着きなさいよ。別にいいじゃないの。あなたがまーちゃんの妹っていうのは事実なんだから」

「そんな。私がそれしか価値のない女だっていうの?」

「とにかく」

ヒサシは遮った。これ以上無駄な会話はしたくない。

「身辺整理を」

セツコの幸せ・・・というより、オワダの為にヒサシはそういったのだった。あとは彼がどこまで自分達の味方に出来るか。

弱みを握らなくては・・・・と。

 

 

 


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