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韓国史劇風小説「天皇の母」112 (なんてたってフィクション)

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「あの・・・」

宿泊先である大使館に戻ると、女官長は恐る恐るマサコに尋ねた。

「お体の具合はいかがでしょうか?」

王宮で大夫ワインを飲んでいたから、それがちょっと心配だったのだ。

しかも、マサコにしては随分の饒舌だったようで、気分的な浮き沈みの激しさが相手国に対して

どんな印象を与えてしまうか、という事が心配だったのだ。

「平気よ」

「それならよろしいのですが。しかし妃殿下、お酒はあまり・・・」

「もう。いちいち言わなくてわかってるわよ。せっかく人が忘れているのになぜわざわざ思い出させるの?」

「忘れているのに」とはすなわち、彼女が「妊娠」しているという事実だった。

それを思い出しただけでマサコは不機嫌になり、ぶすっとした顔になって女官長をにらみつけた。

「せっかく人がいい気分になってるのに水をさすってどういう事?あなた達っていつもそうよね。私が楽しんだり

するのがそんなに許せないの?」

「いえ、そうではありません。ただ、お体の事が心配で。お酒は妊婦にはよくありませんので」

「少しならいいって本に書いてあったわよ。現に元気じゃない」

マサコの声が外まで響いたのか、ドアが開いて皇太子が入ってきた。

「どうしたの?」

「知らないわ。私が今日ワインを飲んだ事を怒ってるのよ」

「私は妃殿下おお体を心配して」

「飲まない事にこしたことはないけど、少しは大丈夫なんじゃないか?」

のほほんと皇太子は言った。これ以上、マサコを怒らせると大使館員達に余計な疑念を与えてしまう。

皇太子は早々に女官長を下がらせた。

「みんな私が不幸になればいいと思ってるのよ。やっと外国に来る事が出来たのよ。さんざん宮内庁に嫌がらせされても

やっと勝ち取った旅行なのよ。なのに、ちょっとワインを飲んだだけで何よ」

「わかったわかった。女官長には注意しておくから。明日は結婚式だし。早く寝てしまった方がいいよ」

妊娠初期の気分の抑うつなのかな・・・と皇太子は本で読んだ浅知恵で考えながら必死になだめていた。

 

結婚式当日。華やかな雰囲気の中、ベルギー王室メンバー始め、各国の王族が教会に集まる。

ロイヤルウエディングと言っても、ブラバント公とマティルダの結婚式は質素に地味に行われる予定だった。

ヨーロッパの王室が派手な結婚式を行う時代はとうに過ぎていたからだ。

出席者のほとんどが上質な生地で作った中間色のスーツに女性は帽子着用といういでたちだったのは

マティルドのウエディングドレスが非常にシンプルなデザインだったからもしれない。

朝からテレビはロイヤルウエディング一色。

美しくて頭のいいマティルダ。ベルギー生まれのお妃を迎える喜びは国民みんなの総意だった。

式が行われる教会の模様も映し出されている。教会の歴史、ここで行われた儀式の数々、ロイヤルウエディング。

そしてこれからの段どりなどをアナウンサーが渾身のレポートをしている。

その映像を見ながら着替えようとしていたマサコは、突如 「これ、やめるわ」といった。

これとは、教会に着て行く予定の真っ赤なドレスだった。

「は?」女官長及び、女官はあまりの驚きに絶句し、「ど・・どうなさるので」という。

「青いスーツがあったでしょう。それにするわ」

青いスーツは予備に持ってきたもので、結婚式後のレセプションtか、外出時に着用予定であった。

赤いドレスは結婚式用にわざわざ作ったものであり、小物類もそれに合わせている。

「だって絨毯の色を見てよ。赤じゃないの。赤い絨毯に赤いドレスなんて全然目立たないわよ」

「そ・・それではお着物になさいますか?それでしたらプロトコルに」

「何で着物で行かなきゃいけないの?その青のスーツを出しなさいよ」

青のスーツと一口にっても、これはただの青ではない。

ロイヤルブルーのスーツだ。

日本でだって大昔は紫が最も高貴な色とされて一般人は使えなかった・・・という歴史がある。

ロイヤルブルーは本来イギリス王家にのみ許された色である。

だから今回のような公式の場では極力避けるのが無難・・・ゆえに赤いドレスにした筈なのだが。

マサコは言い出したら聞かない。

慌てて目にも色鮮やかなロイヤルブルーのスーツに同色のショールを用意。大きな青い帽子も出された。

靴は同色の6センチヒールで。これも最初は赤いもう少しヒールの低いものにするはずだった。

マサコは上機嫌でそれらを身に着け、教会へ向かった。

 

教会の入り口にはマスコミが多数押し寄せ、教会に入る客人たちを映しだしている。

滅多にない慶事であるし、王族方のファッションチェック程楽しいものはない。

とはいえ、今回はみな真冬の式である事や簡素な式を考慮してか、列席者はみな、黒やグレー

薄い青色のスーツにファーで統一しているような感じがあった。帽子こそそれぞ大きいものを

被っていたけれど、大方は黒かグレー。

その中で、ひときは目がさめるようなロイヤルブルーのスーツに身を包んだマサコ妃が皇太子と

一緒に車から降りると、ちょっと回りがどよめいた。

野次馬たちはやんやとはやしてたが、教会の長い絨毯を歩く日本の皇太子夫妻への視線は

決して温かいものではなかった。

(どこのプリンセス?)

(日本よ)

(ああ、日本。それにしても花嫁より目立ってしまいそうな色じゃないの。しかもロイヤルブルーだなんて

度胸あるわね)

(チャールズが見たらどう思うかしら)

マサコは自分が非常に若い部類に入る事。そして予想通り絨毯の色と被らない事で十分に自分をアピール

出来たと鼻高々だった。

記念写真を撮る時の席次は後ろだったけれど、ロイヤルブルーのドレスは十分に自分を引き立たせてくれたと

満足していた。

隣の皇太子も非常に楽しそうで、王族の知り合いにマサコを紹介する度ににこやかに笑っている。

「君の奥さんはちょっとクレイジーなんじゃないか?」とちくりと嫌味を言われても、皇太子にはそれが褒め言葉にしか

聞こえなかった。

 

その後、国王主催の晩さん会では、相変わらずワインがおいしくて、マサコはついつい飲みすぎてしまった。

「ベルギーに来る事が出来てうれしいです。だって6年も外国訪問が許されなかったんですよ。信じられます?

皆さんはヨーロッパ大陸にいるから、あちこちの国へ行くのも簡単で羨ましいわ」

などと喋り、相手がちょっと呆れた顔をするのに気付かなかった。

夜は、大使館でベルギー日本協会のレセプションがあり、乾杯の音頭をとられると、マサコは持っているシャンパンを

飲み干した。事情を知っている女官や侍従達は顔色を変えたがマサコはお構いなしだった。

 

翌日、皇太子夫妻は帰国せず、首都ブリュッセルから離れたヂュルビュイという町へ、全くのプライベートな

旅を楽しんだ。車で長時間の移動は妊婦には負担な筈だったが、マサコは分厚いコートをはおり、

悠々とシートに身を沈める。

ヂュルビュイは小さな町で、「日本の皇太子夫妻がやってくる」というのは歓迎一色のムードにつつまれた。

車を降り、街を散策すると多くの人々がついてきてSPは大変な思いをしたが、皇太子夫妻は上機嫌で

街の人々と話す。

街の人達は総出で迎え、居酒屋を営む老人が「リキュールを献上したい」と言ってSPに止められるも譲らず、

それを見た皇太子がひょいっとグラスを持って飲み干した。みなは喝采した。

マサコも当然、地元の名酒を味わい、一層開放的な気分になった。

ヂュルビュイでは出される食事がどれもおいしかった。

こういう食事がしたかったんだとマサコは言った。東宮御所で食べる大膳課が作った食事の味気ない事といったら。

おまけにムードもへったくれもない。

それに比べたら、このヂュルビュイのロマンチックな街並みと、ソースのきいた大きな肉の塊り、付け合せの野菜の

色の美しさ。とりわけリキュールの味と言ったら。

マサコは結婚して初めて自分が皇太子妃である事を忘れたような気がした。

 

ブリュッセルに戻ってからは、ヂュルビュイで食べたクッキーの味が忘れられず、女官に買いに行かせた。

両親やレイコへのお土産にするのを忘れるわけにはいかなかったのだ。

皇太子夫妻は市内の高級レストランにお忍びで行き、それぞれ別のフルコースを注文。

目にも鮮やかな料理の数々、高級感あふれる店の雰囲気とそんな所で特別扱いされている自分達。

そう考えるといつも以上に食欲がわいてくるし、おいしいとも感じる。

「マサコの方のお肉はどんな味ですか?」

皇太子が珍しそうにマサコの皿を見つめる。一口欲しいのかしらと思ったが、フォークで突き刺して

夫の口に運ぶのは不潔な感じがして嫌だった。

だから「じゃあ、お皿を好感しましょうよ」という事になり、二人は大きな皿を交換し合った。

ぎょっとしたのはレストラン関係者である。

いやしくも三ツ星のレストランで、大皿を交換するマナーなどあり得ない。

この日本の王族はテーブルマナーを知らないのだろうか?いやいや、レストラン側に落ち度があったに違いない。

それでよくよく観察していると、互いに食べかけの皿を交換しているのである。

これはフレンチではやってはいけないルールだ。

給仕係は「すぐに料理を作りなおすように言ってくれ。双方半分ずつ。最初からやり直しだ」と言った。

別々のコースにした筈なのに、皿を交換する程互いの料理が食べたいと思ったのか。

それならそうと言ってくれればいいのに。それに食べたりないのかもしれない。給仕はそう判断したのだった。

そこで、新しい料理が運ばれてきた。

今度は当惑したのは皇太子の方だった。

「いや、別に料理が足りなかったとかそういうつもりじゃなかったんです」

「そうよ。もうお腹いっぱいだわ」

という事で二人は新しく運ばれてきた皿には手をつけなかった。

 

それでも二人でワインを二本飲み、ゴージャスな食事を堪能した所で、レストラン側のたっての願いで

記念撮影に応じる事にした。

今も残るその写真のタイトルは「皇太子と彼の妻オワダマサコ」である。

つまり、このレストランでは皇太子妃はプリンセスではなく貴賤結婚の扱いであった。

 

一方、皇居では天皇と皇后が驚きの報告を受けていた。

「か・・懐妊している?」

二人は顔を見合わせる。

「本当に懐妊しているのですか」

皇后が尋ねた。カマクラ長官は頷く。

「医師団が確認しましたので確かかと思われます」

「では何でこんな状態でベルギーへ行ったのだ?しかも私達に何の報告もなしに」

天皇の声は少し怒っている。

それは当然だ。皇太子が結婚してからというもの、どれ程この日を待ちわびていたかしれないのだ。

「国民みんなが待っているからね」と言った時、「私の友達にそんな事を言う人は一人もいません」と反抗された

時も、黙って耐えた。懐妊さえしてくれればいいと思っていたから。変な波風は立てたくなかったから。

そうでなくても天皇には皇太子夫妻がとても仲睦まじい・・・という風には見えなかったのである。

「申し訳ございません」

カマクラは頭を下げて今にも土下座せんばかりの勢いだった。

「皇太子両殿下のご意向だったのでございます。もしご懐妊されていると知られたら、きっと両陛下は

ベルギー行きをお止めになるだろうと」

「当たり前じゃないか」天皇は怒鳴った。

「世継ぎを産む体なんだぞ。心配するのが当然じゃないか」

「そうです。皇太子夫妻はどうしてそれがわからないのでしょう」

「両殿下は外国訪問出来なかった事を大変気に病んでおられて。今回こそは何が何でもと。特にフィリップ

王太子殿下は皇太子さまとは同い年で仲がよく・・・」

「だったら皇太子単独でよかったじゃないか」

「はい。しかし、妃殿下がどうしても同行なさりたいとのご希望で」

「何かあったらどうする」

「何かあっては遅いのですよ」

皇后も珍しく声を荒げていた。どうもあの娘は自分を自分だけのものだと勘違いしている。

「私共もそう申し上げたのですが、皇太子殿下がお譲りにならず」

妻のわがままを通す事が愛情だと思っているのか。天皇は頭を抱えてしまった。

なぜこんな・・・ほんの少し考えればわかる事ではないのか。

無事に帰国し、無事に生まれれば確かに笑い話になるだろう。そうなって欲しい。そうなる確率の方が高いのかもしれない。

しかし、皇太子妃に宿っている命は天皇家の命。将来の天皇かもしれないのだ。

どこの国の王族だって、授かった命はその夫婦だけのものではなく大事にする筈だ。

「ご夫妻には侍医団をつけております。まだこの事は外部にはもれておりません。しかし、何やらマスコミの

動きが妙で」

「妙とは?」

「妃殿下のご懐妊情報を掴んでいるのではないかとみられる節があり。勿論、はっきりそんな事を書かれたら大変です

ので釘をさしてはいるのですが」

目出度い事なのだからスクープされてもどうという事にはならない筈だが、ななめ上の思想を持つマサコだ。

下手に週刊誌が騒ぎ出したらどのような反応を示すか。それを思うとぞぞっとした。

「もうすぐ帰国なさいます。その時に両陛下には正式のご報告があると存じます」

カマクラはそういう言うしかなかった。

天皇も皇后も帰国までの日々、ただただ心配し、時計を見つめる日だった事は確かだろう。

そんな親心も知らず、皇太子夫妻は意気揚々と凱旋帰国した。

きっと女性週刊誌tが「マサコ様の華麗なる皇室外交」と持ち上げてくれるだろう。

そしたらまた外国に行けるかもしれない。飛行場に集まったマスコミの視線が皇太子妃の腹部に

集中していたなどとは想像だにしていなかった。

 

そして帰国から3日後にそのスクープは衝撃的に報道されたのだった。

 

 

 

 


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