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韓国史劇風小説「天皇の母」123(倍返しのフィクション)

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「マサコ様、ご懐妊の兆候」と最初にスクープしたのはアサヒ新聞だった。

12月7日に意気揚々と凱旋帰国(した気分)した皇太子夫妻は、翌日、皇居に参内する。

迎える天皇も皇后も言葉少なだった。

いくら挨拶とはいえ、公式の行事には違いなく、余計な話をする時間などない。

もう少し・・・・と言おうとした所に、皇太子は「それでは次の予定がるので」とさっさと帰ろうとする。

その背中に向かって「妃の体調はどうなのか」と質問する事がやっとだった。

マサコは、自分が妊娠を隠してベルギーへ行った事に対して全く罪悪感を持っていないようだった。

天皇・皇后の耳に届いている筈の「懐妊」の話を、まるっきり無視して「はい。大丈夫です」と言って

にっこり笑った。

「風邪などひかなかったか」

「風邪?いえ、全然。ねえ」と隣の皇太子に声をかける。皇太子は振り返って「はい。大丈夫です」と答えた。

それ以上は何を言っても修羅場になりそうな雰囲気があったので、打ち切り状態。

その翌々日に載ったのが「ご懐妊の兆候」だった。

勿論、この記事に一番驚いたのはマサコ当人である。

新聞をバシッとテーブルに打ち付けると

「誰の仕業?誰が情報を漏らしたの?尿検査ですって?信じられない。どういう事よ」と大騒ぎになった。

すぐに東宮大夫と女官長が呼びつけられ

「誰が懐妊の情報を流したのか」という犯人探しが行われた。

「尿検査?検査薬で妊娠の兆候が出たですって?ちょっと!トイレにカメラでも仕込んであるわけ?

それともゴミ箱を誰かがあさっているとでも?」

マサコは手が付けられない程に怒り、そしてわあっと泣き出した。

「ひどい。こんな恥ずかしい事を書かれて私が黙っていると思うの?」

皇太子の表情も蒼白だった。

「まだ正式に発表されてもいないのに、どうしてこんな記事が出るんだい?東宮御所にスパイがいるのか?」

そんな事を言われた東宮大夫はひたすら恐縮し

「そのような者はおりません」と答えるのが精一杯だった。女官長も右に同じだった。

「だったらなぜばれたのよ」

マサコはつい、妃殿下にふさわしくない言葉を使ってしまった。

「スパイがいるのよ。きっとこの部屋のどこかに監視カメラと盗聴器があるんだわ。そうでなければわかる

わけないもの。許さないわ。一体誰なの?ばらしたスパイは!」

「妃殿下、そのような事を軽々しくおっしゃるのはどうかと思います」

たまらず東宮大夫は言い募る。

「宮内庁職員、東宮職、みな両陛下と皇族方に対しては忠誠を持ってお仕えしています。採用される時も

身元確認はもちろんの事、内舎人、女嬬等に至ってまでも家柄なども重視しております。そのような職員に

疑いをかけるなどもってのほかです。皇族とは怒りを面に出してはいけない存在です」

「そういう事いう人が一番怪しいんじゃないの?」

マサコは涙でぐちゃぐちゃになった目をきっと大夫に向ける。

「だってそうでしょう?この事を知っているのは宮内庁長官とあんた達だけなのよ。他に誰がばらすのよ」

「何と言う・・・・」

東宮大夫は絶句した。

先ほどから黙って聞いている皇太子はマサコのセリフにいちいちうなずく。

「とにかく、誰がこんな話をアサヒ新聞にしたのか、犯人を捕まえて下さい」

「捕まえてどうなさるのですか?」

「クビに決まってるでしょ。懲戒免職よ。ああ、それだけじゃ物足りないわ。名前を世間に公表して生きていけなく

させてやる」

 

実は、皇太子妃懐妊の兆候については国営放送も掴んでいた情報だった。

こっそりとベルギーへ行く前に宮内庁病院を受診した事や、旅行の準備のあれやこれやで

何となくそうではないかと・・・しかし、確証がない限りスクープは出せない。速報は打てないのだ。

そこにアサヒが一か八かの大ばくちに出たのだった。

勿論、確証がない事であるから「兆候」という言葉を使って。

 

天皇も皇后もこの報道には正直、びっくりしたが、すでに聞いている事であり、慶事であれば・・・と

おおらかな気持ちで受け止めていた。

しかし、怒り狂ったもう一人がいた。

それはヒサシだった。

娘のプライバシーが侵されたとか、皇統に関する話がマスコミを通じてもたらされたとか・・・そんな生易しい

話ではない。

自分が知らない所でスクープされた事に怒り狂ったのだった。

しかも、なぜこの時期に。このスクープがせめてあと1週間

遅かったらもう少し温和に対処出来たかもしれない。

しかし、事はベルギーから帰って来た直後なのである。

もし「懐妊」を隠してベルギーへ行った事がわかったら・・・・国民感情としてどういう反応を示すだろうか。

なんせ、皇太子夫妻は6年もの間、子供に恵まれずやっと授かった命なのである。

本来なら全てにおいて最優先させるべきものの筈。

これは、マサコにとってマイナスイメージになりかねない。

「ったく・・・バカ娘が」

ヒサシはつぶやいた。

 

マサコは13日に宮内庁病院で超音波検査を受けた。

病院へ行く車には真っ白なカーテンがひかれており、まるで囚人の護送のようないでたちだったので

マスコミは「何で目出度い事なのに顔を隠すのか」といぶかしく思った。

アサヒがスクープした日の夜からマサコは眠れなくなっていた。

壁のどこかに盗聴器やカメラがあるのではないかと、意味もなく動き回り、調度品を見回り、うろうろと歩き続ける。

年始に公開される写真を撮りに皇居に出かけたが、それすら誰かにつけられているようで、安心できなかった。

彼女の頭の中には「懐妊の兆候」という言葉ではなく「尿検査で陽性反応」という言葉がこびりついて離れない。

まるで人前で裸にされたような気分だ。

「尿検査・・・・尿検査・・・・」頭の中でぐるぐる回るその言葉はマサコを恐怖のどん底に突き落としたのである。

マスコミは何と言う恥知らずなのか。そして人権無視のウジムシだ。

思えば、結婚前からまるでその気がないと言っているのにしつこく追い回してきたのはマスコミだ。

イギリスまで追いかけてきて・・・・だから自分だけ修士論文が書けなかったのである。

父はほっとけと言ったけど、損害賠償を請求してもいいくらいだった。

泣く泣く許したのに、またこんな事をしでかして。絶対に許さない。

 

病院の超音波検査では確かに懐妊の兆候が確認された。

そこで宮内庁は急きょ、記者会見を開く。

東宮大夫は言葉を選びながら

「しっかりした検査の結果が出れば隠し立てはしないので、今後も両殿下の人権というものに

配慮して頂きたい。このご慶事が実りますように節度ある報道を強く強くお願いしたい」

と話した。

皇族には「人権」はない。それはわかっていたが、あえてそう言わざるを得なかったのは、マサコがどうしても

その一語を入れろときかなかったからだ。

「皇族に人権がない?そんな筈ないでしょう?何でも有名税で我慢しろっていうの?そんな考え、100年前に

消えてるわ。宮内庁は時代遅れなのよ。だからこういう事が起こったんだわ」

「私達にだって人権はあるでしょう」

穏やかに皇太子が言う・・・・ああ・・・もうだめだ。と、東宮大夫は思った。

皇族には人権も選挙権もないのだ。その代わりに、苗字を持たない権利、皇族として敬われる権利を持っているのだ。

皇太子は自分がイギリス王室の人間と同等だと思っているのだろうか。

そんなこんなで、東宮大夫は苦しげに「人権」という言葉を使い、当然マスコミ側からは、何を一体そこまで

高飛車に高圧的に攻撃的に出るのかわからないと言った声が聞こえた。

事は慶事なのである。ちょっと早く知られたからってそれがなんだというんだろうか。

国民には知る権利がある。世継ぎともなれば国家の慶事なんだから。

もしかして・・・・これは・・・・流産の危険があるという事なのか?

しかし、ベルギーにはちゃんと元気に行って帰って来たし、皇居への参内も果たし、年始の写真撮影も行っている。

もし切迫流産の危険性があるなら絶対安静だろうし。

そこで記者は

「胎嚢は見えなかったのか」と質問した。

東宮大夫は「推定するようなものはあった」と曖昧に答える。その言葉がさらに憶測を呼ぶ。

「異常妊娠とか?」

「いや・・そういう事ではなく」

歯切れの悪い東宮大夫に記者が詰め寄り、ますます「ご懐妊決定」事項で国営放送や週刊アサヒが

おっかけ記事を出す。

ついに我慢ならなくなったヒサシは、いきなりカマクラ長官に怒鳴り込んだ。

 

「流産をほのめかすような事を言われて黙っていられるかっ!」

あまりの剣幕にカマクラは驚き、椅子から立ち上がった。

「いくら妃殿下の父君でもその物言いは・・・・」

「黙れ!こっちが望んでもいないのに懐妊の兆候などというスクープをやすやすと与えおって。

一体宮内庁は何をしているのか。東宮御所にはプライバシーを守る権利すらないのか」

「職員は漏らしてない。そちらこそ憶測で言うのは」

「だったらなぜスクープされたんだ。娘の立場がわかってない」

ようやくカマクラはヒサシの怒りの原因がわかった。

「ご慶事が早く漏れるのは今時は普通です。皇太子妃殿下ともなればマスコミは24時間張り付いています。

それは妃殿下に関心があるからです。一日も早いお世継ぎ誕生を心待ちにしているからです。

今思えば私はやっぱりベルギー行きをお止めすればよかったと・・・」

その言葉はヒサシの怒りを大いに買い捲った。

「ベルギー行きは関係ない。犯人はあんた達だろう。あんた達がマスコミに漏らしたに違いない。

全く口の軽い連中だ。守秘義務というのを心得てないんだから」

「何と言われた?聞き捨てならない言葉です」

「そう思うならさっさと処理したまえ。この報道で妃殿下は大層傷ついている。どこぞの宮家などと違って

愛人がいるとか何度も堕胎しているとか言われても平気な顔で人前に出られるほど厚顔無恥じゃない。

私の娘は」

捨て台詞を吐くと、ヒサシは長官室のドアを蹴り飛ばして出て行った。

呆然とするカマクラ長官。慌てて入ってきたヤマモト次長は、もはや顔色を失っている長官に

何と声をかけたらいいかわからなかった。

「オワダ・・・宮内庁の権威を貶めるつもりか」

このままではまずい・・・・

「アサヒ新聞社に電話しろ。一体どこの誰が尿検査の結果をもらしたのか」

「犯人捜しをするんですか?」

「当たり前だ。東宮職の誰か、はっきりさせるのだ」

これはやつあたりじゃないのか・・・・と次長は思ったが、あえて逆らわなかった。

 

最初に動いたのは女性週刊誌だった。

「これはセクハラとイマイミキも怒った。女性達から怒りの声・声・声・・・尿検査、基礎体温報道は

女性蔑視ではないのか」

アサヒや国営放送にそういう情報を漏らしたのは誰なのか。東宮御所にスパイがいるのか。

女性にとって微妙な情報をマスコミに落とすなど、許せない行為。

つい先日までの「おめでとうマサコ様」報道とはうって変っての「マスコミにばらしたのは誰か」という

犯人探しと、「女性の人権」を問題にするありあま。

そこにはもう「おめでたい話」などという雰囲気はなかった。

「こんな事まで公表されてしまう、可哀想なマサコ様」

「人権も自由もない旧弊な皇室に外交官のキャリアを捨ててまで嫁いであげたのに、こんな仕打ちをされるなんて

あまりにもお可哀想」

いきなり始まった「お可哀想」キャンペーン。

宮内庁は驚き、なすすべもなかった。

 

そして、東宮御所ではさらに重大事になっていた。

マサコのお腹の中で胎児は全く育っていなかったのである。

繋留流産だった。

 


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