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韓国史劇風小説「天皇の母」124(真夏の夜のフィクション)

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「繋留流産というのは母体で子供が育たないという事です」

医師の目をまっすぐに見て、皇后は一言も聞き漏らすまいとした。

「ただちに流産の処置をいたします。母体には影響はありませんので、またすぐにご懐妊なさいますでしょう」

天皇は首を振った。皇后はため息をつく。

「可哀想に。どんなにショックを受けているか。待ちに待った懐妊なのに」

医師団は天皇・皇后が皇太子夫妻以上にショックを受けている事を知り、たまらなくなった。

週刊誌の「懐妊」報道、宮内庁の「懐妊かもしれない」報道を受け、マスコミはこぞって「おめでとう」一色になった。

しかし、あっという間に「繋留流産」である事が発覚。

東宮御所は真っ暗な闇に包まれた。

呆然とする皇太子、ヒステリックに叫びながら泣き出す皇太子妃に、どう対処してよいやらわからず

医師達は立ちつくし、侍従や女官が大騒ぎをするのを黙ってみているしかなかった。

宮内庁病院で手術をしなくてはならない・・・と告げた時のマサコの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていて

その様は可哀想にも見えたが、「あんた達のせいよ」の一言でそんな同情は吹っ飛んでしまった。

「私を誰だと思ってるの。皇太子妃よ。皇太子妃なのよ。その私が妊娠したっていうのに細心の注意を

払わなかったあんた達のせいよ。こんなの医者じゃない。私はあんた達を許さないから」

「妃殿下。流産は誰のせいでもありません」

「私が悪いって言うの?」

「いえ・・・そうじゃなくて」

後は何を言っても無駄だった。マサコはひたすら「ひどい」を繰り返し

「お父様になんて報告したらいいのよ。叱られるわよ。こんなみっともない事」と嘆く。

ああ・・・そういう事なのかと医師団は理解したのだった。

 

それに比べたら、今の天皇も皇后も打ちひしがれて意気消沈している姿は本当に痛々しい程だった。

なにか手ははなかったものか・・・・と、ここで初めて医師達は思ったのだった。

「原因は何ですか?」

小さな声で皇后が言った。

「原因は・・・特にあるわけではありません。強いて言うなら体質とか」

「ではそういう事を繰り返す危険性もあるのか」

という天皇の言葉に医師は口ごもる。

「はあ・・ないとは言えません。でも絶対に次も流産という確証があるわけでもないので」

「ベルギーへ行った事は原因とはいえませんか」

皇后の問いは至極当然だった。

自分達に妊娠した事を隠してベルギーへ行ったのだ。真冬のブリュッセルに。

妊娠初期はもっとも気をつけなくてはならない。そんな時期に海外旅行を優先した皇太子妃の

幼い自我に皇后は強い怒りを覚えると共に、一方でそんな幼さが可哀想でならなかった。

36にもなるのに、いまだ子供のような皇太子妃。そして「そそのかし」に乗った我が息子。

悪いのは妃ではない。皇太子だ。

同じ流産するにしても、やるべき事をきっちりやっていたら、ここまで後悔したり悲しんだりすることも

なかったかもしれない。皇太子妃を止める事が出来なかった皇太子が悪いのだ。

けれど、夫として妻の願いを叶えたいという思いを強くした息子を責められず。

「それで・・・今後はどうするのか」

天皇の問いに、医師達は大きく頷き慎重も言葉を選びつつ言った。

「暫くは静養して頂き、その後はツツミ医師に正式にチームに加わって頂き、すぐにでもご懐妊して

頂くように努力します」

「ツツミ先生ですか・・・・皇太子妃は納得するでしょうか」

皇后は心配そうな目を向けた。今回の事で皇太子妃の宮内庁医師団に向けるめは厳しくなったと聞く。

別に医師団のせいではないのに。

しかし、悲しみのどん底にいる妃を責める事は出来ない。

「納得するもしないも、きちんと子供を産んで貰わないと」

と、天皇は言った。「懐妊」という微妙な問題を理性的に語ろうとする夫に、ちょっと違和感を抱く。

 

「陛下、アキシノノミヤ妃殿下とカコ内親王殿下が参内されました」

そうだった・・・・今日は、カコの3歳の誕生日。

天皇も皇后も、式典の間に入った。

正装のキコに連れられて、御地赤と呼ばれる着物に身を包んだカコが部屋に入ってきた。

天皇も皇后も目を細めて迎えた。

「両陛下にご挨拶申し上げます」

キコの静かな声が響く。そしてカコは「ごきげんよう」としっかりお辞儀をした。

「誕生日おめでとう。もう3歳になったのだね。これからも健やかに育つように」

天皇の言葉、そして皇后は

「誕生日おめでとう。カコ内親王の健やかな成長を祈ります」と言った。

それで儀式は終了。

3歳のカコはちょっとふっくらして目が大きな可愛い内親王に成長していた。

利発なマコに比べるとおっとりしていて、甘えん坊な所があるが、そこがとても可愛らしい。

その後、アキシノノミヤとマコも参内し、さらにノリノミヤも加わって久しぶりの団らんが始まった。

孫達の参内を一番喜んでいるのは天皇だろう。始終、マコに話しかけカコを抱き上げている。

ノリノミヤはマコやカコから「ねえね」と呼ばれて、まるで本当の姉妹のように(叔母と姪という気はしなかった)

仲が良い。ノリノミヤもマコもカコもどこか同じ雰囲気を持っていたし、興味の対象も似ているからか。

皇后とてもマコやカコは可愛い孫だ。

最近のマコは養蚕にも興味を示し、「おばあさまのお手伝いをしたいわ」とけなげな事を言う。

歴代皇后が受け継ぐべき養蚕をこの内親王に教えていいものか・・とも思うが、当の皇太子妃は

全く興味を示さないし、用事がなければ参内することもない。

キコはそんな状況をわかっているのだろう。自分がしゃしゃり出ては迷惑になると思い、娘を出そうというのだ。

そんなキコの賢さをどこかで煙たく思う自分がいる・・・・という事に皇后は気づいていなかった。

「キコちゃん」

と、皇后は言った。

「はい」キコはまっすぐに皇后の顔を見る。おとなしそうな顔をしているが内面は炎のように熱いという事はわかる。

どこか、昔の自分に似ている。

「可愛げがないわね」と言われた頃の自分に。今になってそんな事がトラウマになろうとは思わなかった。

「東宮妃の事は知っているわね」

キコは黙っていた。その表情からは何をどう考えているかはうかがい知れない。

「東宮妃は今、とても精神的に辛い状況にいると思うの。私やあなたは結婚してすぐに子供が生まれて。

多分、そんな私達には理解しがたい苦しみが東宮妃にはあると思うのよ。わかる?」

「はい。あまりに気の毒で」

「自業自得なんじゃないかしら」

とノリノミヤが口を挟む。皇后が「サーヤ」とたしなめた。

「だっておたあさま。ご懐妊という重要な事を両陛下に隠してベルギーへ行かれたのよ。東宮のお兄様はそれを

止めるどころか一緒になってお隠しになられた。そんなおかしな話ってあると思う?」

「それは過ぎた話です」

ぴしゃりと皇后が仕切った。一瞬、みな黙った。

「今さら、過ぎた事を言っても仕方ないでしょう。大事なのはこれからの事です。そうでしょう」

促されたキコは目を伏せて頷いた。

「それでね。東宮妃への対応にはくれぐれも注意して欲しいの。小さなことでも傷つく程もろくなっているらしいから。

それから、マコちゃんやカコちゃんの弟もしくは妹の話だけど」

「わかっております」キコが言った。

「ご心配なさらずに。私達は理解しておりますので」

「しかし」

意外にも言い出したのはアキシノノミヤその人だった。今、キコが「私達」と言ったのに。

「アキシノノミヤ家にも後継ぎが必要です」

「それはそうでしょう。でももし、今、キコが懐妊したらどうなるの?またカコちゃんを身ごもった時のように

色々言われるわ。精神的に耐えられますか?キコちゃんが可哀想だと思わないの?」

「私は別に・・・」と言いかけたキコをアキシノノミヤが止めた。

「キコは自分の役目を知っています。皇統の事を考えて頂くことは出来ませんか?」

天皇は深いため息をついた。

「アキシノノミヤ家にはマコがいる」

皇后も「男子が生まれるという確証があれば別だけど、また女の子だったらどうするの?」

その言葉に宮は信じられないという顔をした。慌ててキコが引き留める。

それでも宮は食い下がった。

「マコは女の子です。このまま東宮家に子供が出来なかった場合は」

「それは今、考えるべきことではない」

「その通りです。東宮妃は数日後には流産の処置を受けるでしょ。精神的に傷つきやすくもろくなっている

のです。弟が僭越な事をしてはいけません」

「はい。わかっています。両陛下の御心を肝に銘じます」

キコはしっかりと頭を下げた。宮は横を向いて黙り込んだ。ノリノミヤも黙っている。しかし、その顔には

納得できないという思いがありありと表れていた。

 

「失礼いたします」

侍従が入ってくる。

「皇太子殿下、妃殿下がご挨拶に」

みな、「え?」という顔をする。今日はそんな予定は入っていなかった。

「今、秋篠宮達がいるから・・・・」

「はい、そう申し上げたのですが。何でも30日に・・・その手術がお決まりになったそうで。その・・」

侍従の言いにくそうな顔を見て、皇后は「わかりました。通して下さい」と答えた。

「マコちゃん、カコちゃんは別の部屋に参りましょう」

ノリノミヤが誘って二人の手を引いた時だった。

ドアが不意に開き、皇太子夫妻が入ってきた。女官が止める間もなくだった。

「ああ、みんな来てたんですね」

皇太子が笑った。マコやカコは「伯父様ごきげんよう」とあいさつする。

皇太子も笑って「ごきげんよう」と返したが、マサコは何も言わなかった。

部屋の空気が一瞬にして凍りつき、全員固まってしまった。

「私達はこれで失礼したします」

まずキコが立ち上がり、それから宮も腰を浮かせる。

誰もがまともに皇太子夫妻の顔を見ようとしなかった。

「突然の参内に驚いています。もし両殿下がお越しと聞いていたら私達は遠慮しましたのに」

秋篠宮が言うと、皇太子の代わりにマサコが答えた。

「みんなで私の事を笑っていたのですか?」

「マサコ」皇太子が焦った声を出した。

「マサコは今、ひどく傷ついているんです」

「失礼したします」

キコは頭を下げ、ノリノミヤとマコ達も大急ぎで部屋を出た。

「今の言葉は・・・・」

アキシノノミヤが声を荒げるのを「やめなさい」と皇后が止め目で「早く帰れ」と命じる。

アキシノノミヤ夫妻は黙って部屋を出た。

天皇は一言、「皇太子妃にふさわしい言葉とはいえない。気を付けるように」と苦言を呈したが

マサコは参内の挨拶もせずにいきなり泣き出した。

天皇も皇后もぎょっとして、立ち尽くす。

「一体・・・どうしたの」

「東宮職を怒って下さい。あの人達は私の気持ちなんか全然わかってくれないんです」

わあわあ声をあげてマサコは泣いた。

皇太子はバツが悪そうにもじもじしている。

「何があったんだ」

「30日に宮内庁病院で手術をするんです。それで車・・・乗って行く車にカーテンをつけたいとマサコが言いだして」

「なぜカーテンが必要なの?」

「プライバシーを守る為です」

「別に悪い事をしているわけじゃない。堂々としていればいいじゃないか」

「だからプライバシーなんですって」

皇太子は苛立った声を出した。

「東宮職も陛下と同じように堂々としていればいいととりあってくれなくて。カーテンレールを引いてくれないんです」

「私を人目にさらして笑いものにするつもりなんです。許せません。皇室ってなんですか?人のプライバシーを暴く

連中に文句の一つもいえない所なんですか?こんな恥ずかしい思いをしなくちゃいけないなんて。

皇太子妃なんてなるんじゃなかった!」

皇后は昔を思い出していた。

一度、流産した事があった。あの時、旧皇族の女性から

「大切な皇太子殿下のお子を流産なさるなんて」と責められた。

本当に辛くて悲しくて仕方なかった。車に乗っている所をマスコミに写真を撮られているのはわかったけれど

当時はそれがひどい事とは思わず・・・・いや、それが皇族なのだと思っていたから耐えた。

でも、本当は・・流産した女性の顔をむやみに映像におさめようとする行為はひどいのではないか。

「皇族にプライバシーはない」

と、天皇は型どおりの答え方をしたが、それを息子達にまで強要しようという気はないようだった。

考えた皇后は

「では東宮職にカーテンをひくように言いましょう。レールをつける暇などないでしょうから、画鋲か何かで止めて」

と答えた。

 

皇居からの帰り道、アキシノノミヤ夫妻はほとんど口をきかなかった。

宮は終始、気難しい顔をして腕組みをし、キコは顔を伏せている。

カコが生まれたのはマコが3歳の時。

子育てというのはあまりに間が開き過ぎても辛いものだ。年齢的なこともある。

皇太后は2年おきに出産を繰り返した。大変だと思うかもしれないが、下手に10年もあくよりは精神的にも

肉体的にも楽なのかもしれない。

という事は、カコが3歳の今、まさにキコは出産適齢期なのである。

33歳ともなればそろそろ高齢出産と言われなくもない時期。

宮の焦りは深刻だった。

このままではアキシノノミヤ家は断絶してしまう。それだけではない。皇統の危機だ。

天皇は「マコがいる」と言ったが、本気で女帝を考えているのか?

その後はどうする気なのだろうか。

「外は寒いね」

ぽつっと宮が言った。

「年末ですから」

キコが答えた。

「うん・・・・」

「温かいココアを飲みましょうね」

キコの言葉に子供達は大喜びだった。宮もやっとそこで顔をほころばせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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