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韓国史劇風小説「天皇の母」125(じぇじぇじぇのフィクション)

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車につけるカーテンの一件により、マサコは東宮職の誰にも心を開かなくなった。

今までも自分の要求が通らない事は多多あった。

皇太子妃の要求がなぜ通らないのかと何度夫に聞いたかあからないし、父親にも訴えた。

でも我慢してきたのだ。

今回ばかりは、こんなにも傷ついた自分が憐れで可哀想で世界中の全ての人から見捨てられたような気がした。

ヒサシは怒っていた。

「流産した子が男子だったらどうしてくれる」とそれはそれはすさまじい怒りだった。

ベルギーへ行く時は賛成してくれたのに、流産した今は「なぜベルギーへ行った」と責め立てる。

ユミコは「恥ずかしい・・・」と言い「またさらしものになるわ」と頭を抱えた。

マスコミに追いかけられてついにキレたのか「妃殿下がお可哀想よ」と叫ぶ始末。

そんな母の様子をテレビで見たマサコは「本当は可哀想だなんて思ってないくせに」と思った。

そんなこんなで部屋にひきこもり状態になったマサコは誰にも会おうとしなかった。

皇太子ですら部屋には入れず、みな右往左往する結果になった。

東宮職は、このような反応・・というか態度をする皇族に出会った事がなく、当然対策マニュアルがあるわけでもなく

どうしたらいいのか頭を抱えてしまった。

そもそも官僚というのは上から目線の生き物であり、高圧的な人間には絶対服従する癖を持っている。

その方が身の為だからだ。

悩みぬいた末に東宮職が出した結論が「長期の静養」だった。

それも、御用邸ではなく、民間の施設。皇族が民間の施設で静養するのは今上が皇太子時代以来なかった。

それすらも今上即位後は批判されてなくなった。

今の時期にそういう事をしてもいいのだろうか・・・という疑問はあったが、「今回は特別」という事で静養先を探す。

結果、みつかったのがスルガ銀行の「迎賓館」と呼ばれる豪華な私的別荘だった。

マサコ好みの洋風の豪華な施設、回りにはレストランもあり・・・贅沢な思いが出来るという事で探しだし、いちおう

それでマサコの機嫌は直った。

年明けの2月8日から12日まではそこで豪華な静養。その後は15日まで葉山で静養。

公務も先々まで入れていなかった。

全く回りと遮断された環境での静養。それも民間施設の物珍しさから、皇太子も上機嫌でくっついてくる。

「素晴らしい建物だね。銀行というのはこういう施設をいくつも持っているのかい?」

「どうかしらねーーでも羽振りがいいじゃない?」

夫婦はシャンデリアの下でワインを片手に意気投合したカップルのように笑い合った。

でもマサコは心の中で「これからはもっと自分の思い通りの人生を生きよう」と決心していた。

それは自己実現の為に何かを努力するという事ではなく、「やりたくない事」を正直に言うという決心に他ならないのだが。

 

「本当に申し訳なかったわ」

電話の向こうはブリュッセルの宮殿である。その声の主は前国王妃・ファビオラであった。

受けているのはミチコ。すなわち皇后。

皇族や王族が直接電話で話す・・・などという事はめったにない。

そもそも王室との付き合いそのものが「社交辞令」なので、せいぜいクリスマスカードや年賀状の交換程度だ。

けれど、ベルギーのファビオラ王妃と皇后は、皇后が皇太子妃時代から仲がよく、それゆえにベルギー王室と皇室との

親交はヨーロッパの王室の中でもとびぬけて深い。

前国王の葬儀には天皇皇后が共に行き、最前列で見送るという事もあった。

皇后バッシングのおりには「私が言って説明してあげる」とまでファビオラ王妃は言ってくれた。

誰にも本音を語る事が出来ない中、皇后は海の向こうの王妃には何となく心の中を打ち明けてきたのだ。

そんなファビオラ前王妃から直接電話があったのは、年があけてから暫く後の事。

マサコの流産のニュースは世界に配信されたからだ。

「妊娠していると知っていたら私達の方ももう少し気をつけたのよ」

「誰の責任でもないのよ。こちらこそ気を遣わせてしまって申し訳なかったと思います。私達ですら懐妊を知らなかったので」

「あら、言わなかったの?当然よね。言ったら飛行機に乗る事を止められていた筈だもの。そうまでして王太子の結婚式に

出たかったと言われたら、こちらは嬉しいわとしか言いようがないけど。でもお世継ぎの誕生は、他国の結婚よりもずっと

重要よ。そこらへんがお分かりにならなかったのかしら」

「妃は外務省時代から外国へ行く事が多くて、日本にいると閉塞感を持つようです」

「その気持ち、わからないでもないわ。あのね、この間いらした時、夕食会で色々お話をしたのだけれど、皇太子妃は相当

ストレスがたまっていたのか、ワインをかなり飲んで・・・ああ、本当に懐妊していると知っていたらワインも止めたのよ。

それで、日本の皇室は旧弊で不自由で考え方が古くて、男女不平等で・・・と色々言われたわ。

それに比べると、ヨーロッパの王室は自由でいいと。国王自ら自転車で街へ出かけたり、国民に話しかけたりして

夏はバカンスを楽しみ冬はスキーで・・・日本にはそんな自由すらないと嘆いていたわ」

「まあ・・・そんな事」

皇后は言葉を失った。

「随分と辛らつに言っていたけど、おたくの息子さんは怒りもせずににこにこと聞いていたわ。そして、私達に「自由っていいですよね。

マティルダ嬢は王室に入る事に悩まなかったのですかと尋ねたの。もうみんな言葉を失って。ああ、でも気にしないで。

フィリップはマティルダはキャリウーマンだけれど、王室のしきたりにも通じていると答えていたから。まあ、私には子供がいないから

自分の息子が嫁を迎えた時の気持ちはわからないわ。でもマティルダは客観的に見て随分努力ていると思うの。それはいいとして。

そちらの皇太子妃は王室の「自由」をはきちがえて覚えているのじゃないかしら」

「それは・・・」

「確かに各国の王室は自由かも。でもそれは自分達に財産があって、その範囲内でやっているというだけだし、自由には

必ず責任が付いて回るわ。国王陛下が自転車で外出し、そこで暗殺されても自己責任なのよ。それをわかってやってるか

どうかという話。私達はむしろ、日本の皇室のように2000年のゆるぎない歴史と血筋を持ち、国民に守られている事が

羨ましくおもうけど。ヨーロッパの王室はフランス革命以来、王室廃止に敏感でどうやって守るかと、その戦いの連続だったわ。

第一次世界大戦でオーストリアが滅び、ロシアが滅び、スペインが・・・次々と王室が消滅していく中で生き残る為に

どれ程国民の総意を尊重し、国民のご機嫌をとってきたか。今時の王室は行動で示さないとすぐに「贅沢だ」と言って

「王室廃止」と来るんですものね。皇太子妃はイギリスが理想に見えるようだけど、あそこの王子達は軍隊に入る事を

義務付けられているのを知っているのかしらね。フォークランド紛争でアンドリューが活躍した話とか知ってるの?

いざとなったら矢面に立つのが王族の義務。そこらへんはちゃんと教えないとダメよ」

ファビオラの言葉は痛い程胸に突き刺さった。

考えてみると小さい頃から皇太子には厳しくしつけて来たつもりだった。

「全て国民の税金なのだから」と学用品の新調をすぐにしなかったり、流行よりも品格と洋服を選んでも来た。

プライベートな旅行をしてもマスコミを避ける事はしなかった。プライバシーはないという考えだったから。

でも、それが皇太子の心に負担を強いていたのだろうか。

今、自由をと言い出した妃にどんどん同調していくように見える息子。

「ブラバント公夫妻も今回の事はとても残念に思ってるわ。一日も早く皇太子夫妻にお子様が出来るのを祈っていますと。

公夫妻もそれまでは子づくりを控えると言ってるのよ」

「そんなお気遣いは無用ですわ。そんな事・・・」

「だから早くお世継ぎが出来るようにって」

電話を切った後、皇后は深く沈み込んだ。

マサコの懐妊と流産がこんな風に外国にまで波紋をもたらした事・・・・彼らは知っているのだろうか。

でも、今のマサコにはそれは言えない。また暴れだすかもしれないから。

「どうしたらいいの」皇后はさらに沈み込んでいった。

 

 

 

 


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