昨日は姫と一日デートでした
観劇して帰ってくるだけの予定が・・・
姫の「あのね。私、今日は貴重なお休みなわけ。ただ観て帰るだけじゃ
もったいないと思わない?」という言葉で
「じゃあ、どこ行きたいの?お昼はどこで食べるの?」みたいな話になり
観劇のあとは青年館近くの大戸屋さんでお昼食べて、そこから日比谷まで出て
キャトルレーヴでうろうろ
そうなると私だって「お酒飲みたいよ そもそももう何週間飲んでないと思う?
ねえ、居酒屋行こうよーー」と姫を誘い。
すると、姫は「冗談でしょ。過敏性腸なんたらの人が酒ってありえない。でもどうしても
というならミロワールへ連れてって」
時計を見るとまだ16時半。それから延々と18時まで時間を潰して行きましたよ。
私が飲んだカクテルの名前は「ナポレモン」
姫のは可愛い「ファンキーサンシャイン」
お客同士で「翼ある人々」の熱狂レビュウが始まったのでした
翼ある人々ーブラームスとクララ・シューマン
断言してもいいけど。
今年、これ以上の脚本は出ないでしょう。
つまりこれ以上の名作は出ないという事です。
(まだ3月なのに・・・とお店で笑われちゃったけど)
上田久美子おそるべし よくもまあ、これだけの脚本を、練りに練ったセリフを
書きましたよね。
演出家に与えられている時間というのは、多分そんなに変わりがないのではと思います。
いつも矛盾だらけのものや、言葉の間違いがそのまま出てくる宝塚の脚本。
でもそれは「忙しすぎて推敲している暇がない」という事で聞いていて、そうだろうな
と気の毒に思っていたものです。
でも、今回の脚本を見る限り、「時間がーー忙しいからーー」なんて事は
言い訳にすぎない事。単なる「能力の差」「実力の差」でしかない事を証明したので
ありました。
観劇する前。
かなり「敷居の高い舞台」なんだろうなと思って敬遠しそうになってました。
だって。
クラシックに詳しくない私には「ブラームス?なんじゃそれ」程度の知識しかなく。
それゆえに全く事前知識なく見る事になったわけで。
酒場のピアノ弾き、ヨハネス・ブラームスがヨーゼフと出会ってシューマンの自宅へ。
そこからヨハネス・ロベルト・クララの「才能」「時間」「師弟関係」「恋愛」を巡る
様々なドラマが繰り広げられていくのです。
シューマン夫妻のヨハネスに対する愛情・・・というか、「これぞ愛」と思う程の
無償の愛を受け、ブラームスは夫妻の子供の一人のようにすくすくと育ち、
そのうちに「母もどき」のクララが「大事な人」に変貌していく。
世間でのシューマン夫妻への不当な評価、リストとワーグナーの生き方、
ロベルトの悩み、そして病気・・・実に沢山のストーリーがそこへ入ってきます。
でも散漫してみえなかったのは、ラスト近くに表れたベートーベン(?)
により、全ての音楽家は偉大なるベートーベンを超える事が出来ない事、
何をやっても模倣に見えるという事に苦悩している事が明らかになり
「芯」がそこに出来たという事ですね。
まあ、もう少し早くベートーベンを登場させてもよかったし、その方がわかりやすかった
かもしれません。
でも、今までの演出家がこれをやると、しょっぱなからベートーベンを登場させ
しつこいくらいに「彼を超える事は出来ない」連呼の歌やセリフになり、観客は
「しつこい」と思ったでしょうから、まあ、丁度良かったのかなと。
1幕が11場もあります。
1場、7場、8場はAとBにわかれています。
つまり、すごく「場割り」が多いのです。こんな風だと普通は、しょっちゅう場面転換
して忙しく、観客が疲れてくるしわけがわからなくなるものなんですが
この「転換」を非常にスムーズにやってくれたおかげで、時間を忘れてみる事が
出来ました。
また、緩急のつけかたが非常に上手というか、まるで交響曲のように
上がっては下がり・・・となるので、感情移入しやすかったと思います。
特に1幕ラスト、「あなたを愛している!」とブラームスが叫び、ロベルトが
橋から飛びおり、だん!と音が響いて真っ赤な照明で幕・・・が印象的
かつ衝撃的で(予定調和の一つであるにも関わらず)
幕が下りたあと、姫と一緒に顔を見合わせ「すごかったね。なに?これ」と
言い合いました。
姫などはドキドキしちゃったみたいです。
それから二人でスマホでウィキ検索(笑)
それぞれの人生がほぼ史実である事にまたもびっくりしてしまいました。
2幕目。
1幕目で広げた伏線を一つ一つ回収しながらラストへ向かって突っ走る。
それも暗くなり過ぎない程度で。
それでも姫はシューマンの死に涙したのですが。
私は、シューマンにそっと顔を埋めるクララがずっとその姿勢でいる事に
感動してしまいました。なんと情緒のある死に方だろうって。
最後の最後に「私と一緒に来ませんか」と誘うブラームス。
クララは「あなたは自由になるの」という。
この何とも言えない互いを見る目というか、そこに本当の「愛」があったんだなあと
思いました。
さしたるラブシーンはありませんでしたが、信頼と深い愛情に包まれた三つ巴の
恋模様を楽しませて頂きました。
出演者について
朝賀まなと・・・単独主演の1作目という事で。いい作品にめぐり合えてよかったと
思います。朝夏まなとという人はダンスは上手だけれど、演技的には
不器用で、引き出しが狭いタイプ。演技のすみずみに「人を無邪気に
信頼してしまう優しさ」がにじみ出るタイプなので、「銀河英雄伝説」の
キルヒアイスが当たり役になったのだと思います。
今回も、性格的には偏屈で彼女のタイプではないものの、必死に
クララと子供達に尽くす姿は好感がもて、ある意味「理想の男性像」だと
思いました。
個人的には子供達の面倒をみているヨハネスが大好きです
怜美うらら・・・このところ、娘役不遇というか、ヒロインらしい役を与えて貰えない
現状で、そこにいかにも「これぞ宝塚のヒロイン」クララが登場して
くれたのですっきりしました 宝塚はこうでなきゃ。
まず、怜美の美しさ。シューマンにブラームスにリスト・・・彼らが絶賛
してやまない美しさを怜美は持っていますし、また凛とした気丈な部分と
母のような包容力も同時に持っていました。
まさに、この役は怜美のもの。彼女の代表作になるでしょう。
「キャパ」の時は、どうなるかと思いましたが、こんなに早く成長を間近で
見る事が出来てうれしい。
「モンテ・クリスト伯」のメルセデスや「風と共に去りぬ」のメラニーは
きっと理想的に演じてくれるのではないかと思います。
歌唱力はもう少し努力が必要。それさえできればエリザベートも夢じゃない。
緒月遠麻・・・・この人は本当に役に恵まれるというか、何をやってもおいしい所を
かっさらっていく運命の人なんだなと
シューマンは優しくて思いやりがあって、弟子のヨハネスを第一に
考える人格者として描かれています。
緒月は元々穏やかんで父性的な役柄が似合う人ですが、そういう意味では
これまた当たり役だったのではないかと。
妻の事で、ヨハネスに疑念を抱きながらも責めない。ラストは全てを
受け入れて死んでいく。まさに理想の師匠です
ある意味緒月あっての「翼ある人々」だったのではないかと思います。
すみれ乃麗・・・学年的には怜美より上なのに、可愛らしいルイーザをちゃんと
演じてくれました。これ以上、大人の役になれるかどうかが節目。
老人の役も、まあまあ(ちょっと花總風だったけど)
澄輝さやと・・・ヨーゼフ・ヨアヒムは芝居の中では一服の清涼剤のような役で
その任をよく果たしたという印象です。
ヨアヒムが出てくると明るくなるし楽しかったです。
凛城きら・・・色々な意味ですごい役でした。ベートーベンはヨハネスの妄想。
その妄想がヨハネスに重要できついセリフをガンガンいうのですが
一々的を得ていて、見ているこっちらが苦しくなる程でした。
こういうスパイスのような役をきっちり演じられた事は彼女の財産に
なるでしょう。
愛月ひかる・・・メイクが今一つだった事を除けば完ぺきでした。
嫌味で傲慢だけど、ちょっとだけ優しい・・・複雑な役でしたね。
春瀬央李・・・ワーグナー。笑わせて頂きました。ビジュアルがその昔の
涼風真世風でちょっと好きかも。
純矢ちとせは声がひっくりかえるハプニング。ローエンタール夫人は
謎めいていますが、純矢はただ声を落として演じたに過ぎなかったなと
いう印象です。白いドレスは素晴らしかったけど(花總まりの)
太って見えたし。
子役の3人はすごく可愛らしくて大好きでした。
実際にブラームスはあんないい子じゃなかったろうし、シューマンなんか
梅毒で死んでるわけで。それでもそれぞれの事実は事実として描きながら
あそこまで美しくできた上田久美子さんは素晴らしい作家であると思います。
今度こそ手放してはならない人ですよ。歌劇団様。