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今時の女の子に読ませたい昭和の少女漫画2

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 前回、結構好評だったのでまた頑張ります

 市川ジュン 「星にきけばいい」

   昭和49年別冊マーガレット10月号に掲載。

 

市川ジュンという漫画家を知らない人も多いのではないかと思います。

後に「陽の末裔」「懐古的洋食事情」などを描く、非常に社会的だけれど

メルヘンチックな漫画を描く人です。

この人のストーリーはどこまでも上品で優雅。

言葉遣いの一つ一つが「古きよき時代」を象徴しているような印象。

またヒロインをはじめ、名づけの天才でもありまして。

かくいうジュニアの名前はこの人の作品の中からとっています。

 

 星にきけばいい

登場人物・・・荻聖子(表紙左の女の子)

        桂木泉(表紙右の男の子)

ストーリー・・・・泉(せんと呼びます)は桂木病院の一人息子。おぼっちゃま。

      そんな彼がある日、荻聖子という透き通るような美少女と出会う。

      聖子は病院に薬を貰いに来ていた。何の薬?

      実は母親が分裂病(統合失調症)で、聖子は一人で母の看病をしている。

      泉と聖子は互いに惹かれあい、淡い初恋のメロディが流れる。

      しかし、母の病状悪化と聖子の遺伝的傾向に、二人は別れて行く・・・という話。

 

今でこそ統合失調症でも投薬で働くことも出来るまでになりましたが

当時はいわゆる「気が狂う」状態と認識されていた病気。

遺伝的傾向も強いとされていましたよね(現在は20%くらいですか?)

母子が二人暮らし・・さぞや生活が荒れていると思いがちですが、聖子と母の

暮らしぶりはそんなに悪くない。

聖子は母を「かあさま」と呼ぶし、お金持ちおぼっちゃまとの「格差」はそんなに

見えません。

泉は母の病気を含めて彼女を受け入れたいと思うけど、ある日、母親の「狂う」

姿を見て逃げ出してしまった。

その事の罪悪感と恐怖から別れにいたるのです。切なくて悲しいラブロマンス。

印象的だったのが、暴れる母をなだめる聖子のセリフ

「かあさま かあさま 私は聖子ですよ さあどうなさったの

どうして静かにしておいででないの 聖子にはなしてくださいな」

この上品な口ぶりが好きでたまらなかったんですよねーー

 

さてこのコミックスには同時収録されている作品があります。

 「涯ない雲」(昭和49年別マ7月号掲載)

登場人物・・・・夕夏 (中央の女の子) → 母子家庭育ちで兄と弟・妹のド庶民

         高倉直人 (表紙左) → 高倉財閥の一人息子

         谷川森 (右) → 直人の親友

ストーリー・・・高校2年の夕夏が直人にプロポーズされた所から始まる。

         いわゆる皇族の血を引く高倉家の格式に従い、夕夏も嫁見習いで

        高倉家に住みこむのだが、直後に直人が事故死。

       「婚約者」の扱いを受けていた夕夏は「未亡人」となって、高倉家で

       「庶民出身の嫁」としていびられる。

        そこに森が現れて彼女を救い出そうとする。

        セレブな生活の極みが描かれ、「なさいましてよ」なんてセリフが

       随所に出てきます。どこかの東宮妃もこれを読んでから嫁げばよかったのに。

       ここには「風と共に去りぬ」を思い出させる喪服の舞踏会が出てきます。

 

 デイジ・グリーンの夏 (昭和49年別マ8月号)

登場人物・・・デイジ・グリーン (表紙)

        ヴィオラ・パープル (デイジの伯母)

ストーリー・・母を亡くしたデイジがヴィオラおばさんが住む「花ざかりの家」に

        来た所から話は始まる。

        母のリラはずっと「花ざかりの家」に帰りたいと言っていた。だからデイジは

        初めて来たのにまったくそんな気もせず、ひたすら明るく毎日を過ごす。

        でも、ある日、牧師の妻たちとの会話。

        リラがアレック・グリーンと駆け落ちをした件から姉のヴィオラは

        人間嫌いになった話を聞いてしまったデイジ。

        デイジとヴィオラは喧嘩。そしてヴィオラが怪我をして二人は和解。

        

どこまでも「赤毛のアン」へのオマージュが感じられる作品です。

私がこの作品が好きな理由はセリフの可愛らしさにあります。

冒頭から「春はひなぎく すみれに野ばら 桜にりんご きんぽうげ

      夏にはけし ゆり きりん草 くちなし あおい ほうせんか

      秋の紫苑や コスモスや 冬さえ白くさざんか咲いて」

って・・詩的でしょう?

デイジが怪我をしたおばさんの看病をする時も

「ミルクしぼってオレンジもいでチーズを切って卵とベーコン

チキンサラダにオニオンスープ マフィンを焼くわね

りんごのとチーズのと それからコーヒー

フリーツ入りのブラマンジェ」

当時、マフィンを知らずブラマンジェも知らず・・・どんな食べ物なんだろうって

わくわくしながら読んでいたんです。

 

これにはもう一本「花ざかりのデイジ」も収録されています。

「楓屋敷」に住むカール・カーマインとデイジの交流です。

 

このように市川ジュンの作品は夢にあふれ、ひたすら品がいい。

そんな彼女が初めて社会派に挑戦したのが「それぞれの旅」でした。

 

 市川ジュン 「それぞれの旅」

                   (昭和50年別マ2−3月号)

登場人物・・・木崎玲鈴(中央)・・・

         立原 (右)・・・・俳優をめざす役者の息子

         若菜 (黒髪の女の子)

         小尾 (右から3人目)

         霜(左端)・・・心臓が悪い少年

いわゆるこの5人は中学の生徒会のメンバー。

みんなから「ハイソサエティ」と呼ばれている。

中でも鈴は生徒会役員をやりつつもお勉強はよくでき、画家になるのが夢の

何に対しても前向きで努力家の少女。

しかし、父が会社の不正の汚名を着せられ、自殺した事から生活が一転。

生活保護世帯になってしまう。

中学3年でいずれは大学まで行って留学も・・・なんて思っていたのに、突如

中卒で就職。回りとの格差にいじけ、不良の仲間に入ろうとする。

そんな鈴を救ったのが心臓の悪い霜君

彼は自分には出来ない事を次々叶えてくれる友人達を羨ましいと思いつつ

一緒に夢を見る事が出来たという。

そんな霜に触発されて鈴は就職活動にまい進。やがて定時制に通わせて

くれる高校の図書館で働けるかもしれない事に・・・・・

 

前半の夢見がちな少女のメルヘン一杯のシーンから後半の

生活苦を描くシーンまで。市川ジュンの社会派へのターニングポイントに

なった作品と言えましょう。

 

今時の女の子は容易に夢を見ないし、メルヘンに憧れない。

BLが大好き・・つまり身近な夢をかなえるというより、異次元の世界に

ぶっ飛びたいと思っているんでしょうね。

そんな彼女達に現実社会の中で夢を見て欲しいと思うのは間違いでしょうか。

 

        

 

 


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