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有識者達の戦後70年談話8

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5 20世紀の教訓をふまえて21世紀のアジアと世界のビジョンをどう描くか。

日本はどのような貢献をするべきか。

(1)20世紀の世界が経験した二つの普遍化

 21世紀のアジアと世界はどうあるべきか、

そして日本は理想的なアジアと世界の構築のためにいかなる貢献をしていくべきか。

 この問いに答えるために、

我々は、20世紀における世界と日本の歩みを振り返り、

そこから得た教訓について考えてきた。

世界は、20世紀に2度の世界大戦をはじめとする幾多の戦乱、

植民地支配、革命、人権抑圧、ブロック経済を経験した。

そして、これら対する反省を基に、平和、法の支配、自由民主主義、

人権尊重、自由貿易体制、民族自決、途上国の経済発展への支援といった

諸原則が広く共有されるようになった。

この世界史の中で、日本は、1930年代から40年代前半にかけて、

当時の国際的潮流に逆らう形で軍事力を行使してアジアにおいて膨張し、

第二次世界大戦の大きな要因を作った。

そして、この大戦に敗れた日本は、戦争に突入するに至った過程と戦中の

さまざまな行為を痛切に反省し、戦後は、先述したような国際社会の

共通原則に極めて忠実に生きることで、繁栄を実現した。

以上の点は本報告書の第1章において前述したとおりである。

 このような国際社会におけるルールと価値観の転換が、

20世紀の世界において非常に大きな変化であったという点は明らかである。

しかし、我々は、21世紀のアジアと世界像を考える際に非常に重要な

20世紀の世界におけるもう一つの大きな変化にこれまであまり触れてこなかった。

それは、国際社会の構成員が20世紀を通して大きく変わったという事実である。

 20世紀初頭、世界は独立国家と植民地に大きく二分されていた。

西欧、米国、ロシア、日本は世界を植民地にしていた。

今では許されない価値観であるが、列強は、進んだ国々が、

「野蛮」「未開」の地域を文明化するために植民地化するという構図を世界で

普遍化しようとした。

しかし、この流れは、第一次大戦において、民族自決の理念が登場するとともに

一旦停止することになった。そして、第二次大戦により、決定的な打撃を受けることとなった。

 第二次大戦後、戦勝国の植民地も宗主国に対して協力することによって

戦後の独立を約束されるなど、独立への道を進んだ。

英国、フランス、オランダなどの東南アジアにおける植民地も、

日本の進出によって大きな打撃を受けた。

戦後、英国、フランス、オランダは植民地支配の回復を目指したが、

これを実現することはできなかった。日本はアジアの解放を意図したか否かにかかわらず、

結果的に、アジアの植民地の独立を推進したのである。

そして、新しく生まれた独立国に対し、日本は戦後、賠償さらに経済援助を通じて、

その自立に協力していった。

 20世紀初頭、列強は、「文明化」の名目のもと植民地を支配し、

帝国主義という自らの価値観を世界において普遍化しようとした。

第二次大戦後の1950年代、60年代に植民地が苦難の末独立を達成し、

民族自決が尊いものであるという価値観が確立され、

世界に多くの主権国家が誕生した流れは、20世紀の世界における二つ目の

普遍化であったと言える。

(2)21世紀における新たな潮流

 1960年代までに多くの植民地が独立を達成したことにより、

世界中全ての国が平等の権利を持って国際社会に参加するシステムが生まれた。

そして、新たな国際社会の繁栄の原動力となった諸原則が、

平和、法の支配、自由民主主義、人権尊重、自由貿易体制、民族自決、

途上国の経済発展への支援であった。この中で、国際社会でこれらの価値観の旗手となり、

世界の繁栄をリードしてきたのは米国であった。

そして日本は、米国と緊密に連携しつつ、国際社会の普遍的な諸原則を尊重し、

推進することにより、自らの繁栄を成し遂げるとともに、

世界の平和と繁栄に貢献してきた。今日の世界における多くの国々と

日本の平和と繁栄が、20世紀後半のシステムの成果の上に成り立っており、

この流れを21世紀においても維持することが非常に重要となる。とはいえ、

今世紀に入り、世界では二つの新たな潮流が生まれてきている。

 まず、新興国の台頭と共に、世界秩序におけるパワーバランスが変化を見せている。

IMFの経済予測によれば、2000年に66%であったG7の世界経済に占めるシェアは、

2018年には45%に下がり、新興国が20%から42%に増加すると見込まれる。

そして中国のシェアが2000年の4%から2018年に14%に上がるのに対し、

北米、欧州のシェアが58%から2018年44%、日本のシェアが、

15%から6%に下がると見込まれている。こうした中でも、

米国は当面世界秩序をリードし、共通価値観の旗手としての役割を維持すると考えられるが、

その力はこれまでのように他を圧倒するものではなくなっている。

 もう一つの変化は、中東やアフリカの一部に安定した国家建設が

進んでいない現実があるということである。

そこでは、国家の領域を越えるさまざまな団体の動きが活発化しており、

世界全体の不安定要因となっている。更に、グローバル化の進行とともに、

宗教宗派対立、民族対立、各種のテロリズムといった形で脅威が多様化し、

これまでの伝統的な安全保障の概念では対応できない局面が増えてきている。

こうした新しい構造変化が、爆発的な人口増加と幾何級数的に

伸びる情報通信技術の普及によってもたらされる世界のスピード化の中で起こっている。

一方で、肯定的な意味での多様化にも目を向けたい。

現在の世界では、民族や文化や宗教や政治体制を超えて人々が集まり、

交流し、その集合の中から新たな価値や技術が生まれてきている。

グローバル化の進展とともに脅威が多様化する一方、

平和への貢献において、従来の国家や国際機関にとどまらず、

非政府組織(NGO)など非国家主体が市民外交や紛争後の

復興支援等に建設的な役割を果たしている。我々は、こうした非国家主体とも協力し、

地域の安定化と国家建設に貢献していかなければいけない。

(3)世界とアジアの繁栄のために日本は何をすべきか

 21世紀の世界と日本の平和と安定のためには20世紀後半の

国際的共存システムを維持することが非常に重要である。

その一方、21世紀の世界における新たな潮流を前に、

これからの日本には従来とは違う役割が求められてくる。

米国の力が圧倒的でなくなり、国際秩序における不安定要因が多様化する中、

日本はこれまで以上に積極的に国際秩序の安定に寄与する必要がある。

 まずアジアに目を向けたい。米国の国力が相対的に低下している中、

米国がこれまで果たしてきたアジアの安定に絶対的な役割を担うことは難しい。

かかる状況下、日本もこの地域においてバランス・オブ・パワーの一翼として、

地域全体の平和と繁栄に従来にもまして大きな責任を持っていくべきであろう。

アジアには、平和、法の支配、自由民主主義、人権尊重、自由貿易体制、民族自決、

途上国の経済発展への支援といった諸原則を日本と共有する国が多い。

日本にはアジアにおいて、自由主義的なルールの形成を主導し、

コンセンサスによって地域のシステム創成をリードしていく意欲が求められる。

そして、ルールを作る際には、地域の関係国全てが納得する形で作ることが重要である。

 しかし、日本にとっては、第4章で述べたとおり、中国、韓国との間では

和解が完全に達成されたとは言えず、

和解を達成した東南アジア諸国においても、日本に複雑な感情を抱いている人々も存在する。

さらに、その他の歴史問題も残っている。

中国、韓国との間では地道に和解に向けた話し合いを続け、

同時に東南アジアの国々には過去を忘れずに謙虚な態度で接することが重要である。

 当然のことながら、国際社会で日本に求められる役割はアジアにとどまらない。

国際秩序の不安定要因が多様化する中においては、米国をはじめとする友好国と協力し、

グローバルな課題にもこれまで以上の責任を負うことが求められる。

第二章において、戦後日本が国際秩序安定への役割をいかに発展させてきたかを振り返った。

21世紀の日本は、この流れを加速させ、更なる責務を負っていく必要がある。

国際社会は、1990年代前半から脈々と発展してきた日本の積極的平和主義を評価しており、

安全保障分野において日本が今後世界規模で従来以上の役割を担うことが期待されている。

今後、日本は、非軍事分野を含む積極的平和主義の歩みを止めず、

これを一層具現化し、国際社会の期待に応えていく必要がある。

経済面における国際秩序の安定においても日本に期待される役割は大きい。

21世紀に入り、世界では、地域経済協定が乱立し、

新たに経済力をつけてきた国々が自分たちの基準を普遍化しようとする動きが出てきている。

自由貿易という20世紀世界経済発展の根幹となったシステムを

21世紀においても維持・進化させていくためには、

多くの国が参加する普遍的なルール作りが求められる。

現在交渉中のTPPは、アジア太平洋における普遍的な自由貿易のルールとなるが、

これに加え、その影響力に陰りが見える世界貿易機関(WTO)の復権に

日本が指導的役割を発揮し、全世界的な自由貿易システムの構築を目指すことも、

国際経済秩序安定のために意義がある取り組みだと言える。

世界の意思決定が分極化し、さらなる貿易自由化への旗振り役がいなくなった世界で、

日本の責務は大きい。日本はTPPを超えて更に、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)への

動きをけん引していくべきであろう。

 上記の貢献策は日本が全く未経験の施策ではなく、戦後70年間に実績を上げてきた

日本の国際貢献を拡大するものにほかならない。

しかし、一国が国際的な役割を増大するに際しては、

国内外で懸念や反対の声が出ることも珍しくない。

日本政府は、国民に対しては、新たな貢献の意義につき十分に説明をして

理解を得るよう努め

、各国に対しては、日本は国際社会で共有された価値観に基づき

関係国との合意によって物事を成し遂げていく国であることを丁寧に

説明していく姿勢が求められる。


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