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韓国史劇風小説「天皇の母」 208(けなげなフィクション)

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「え?前置胎盤?」

宮邸に戻った宮は、キコの定期健診の結果を聞き、

わけがわからないように首を振った。

「大したことではありませんの。侍女長が大騒ぎしたので」

「大騒ぎする事ですわ」

こお際だから・・・というように侍女長は胸を張った。

「私は以前から思っておりました。妃殿下は働きすぎると。

ご懐妊されても公務をお休みにならない。でも、私にはわかります。

前の2回の出産と今回では全然違うのです。そうでございましょう?

妃殿下はもうすぐ40ですよ。

だから少しでもお休みになってと申し上げても妃殿下はお聞き入れにならず。

その結果、こんな事に・・・」

とうとう侍女長は泣き出した。

「私のせいでございます。私がもっと妃殿下をみて差し上げれば」

「まあ、違うわよ。誰のせいでもないわ」

妃は困ったように微笑んだ。

宮は自分が責められているようでばつが悪かった。

「前置胎盤とはそもそもどんな風なの?」

「胎盤が子宮口に被っている状態なんですって」

「ですから、出産の時に大出血を起こすかもしれないのです」

侍女長は怒鳴ってしまい・・・慌てて口をつぐんだ。

「何だって」

宮は聞くなり絶句し、下を向いた。

「全員、出血するとは限りません。大丈夫です。私は。ただ、リスクが

多少高いというような話で」

「医師は何といってるの」

「自然分娩は難しいだろうと。帝王切開にした方がいいと」

「だったらそれで」

「殿下。皇室で帝王切開は前例がないのですよ」

妃はまたも困ったように微笑んだ。

「私も初体験で少々とまどっております。マコもカコも普通に生まれましたし。

今回のような事でお子に影響が出たら」

「どんな子供でも受け入れる」

宮はきっぱり言い切った。

「でも、それ以上に私は君をとる」

「殿下」

宮は思わずキコの手をとった。

「大変な思いをして懐妊してくれた。毎日、どれだけのプレッシャーが

あったろうと思う。これからだって」

「それは私、覚悟しておりましたし」

「でも不甲斐ない夫だよ。守ってやれない。抗議も出来ない。

私達に3人目が出来るのは自然な事であるという事を誰も理解してくれない。

だけど、君を失う事に比べたらそんな事は小さなことだ。

もし、子供か君かと言われたら迷わず君を選ぶよ」

「それはいけません」

キコは珍しく目を吊り上げていった。

「お腹の子は殿下のお子です。どのような事があっても失ってはいけません」

「でも」

「私にも覚悟があります。たとえこの身に何があっても、お子だけは無事に産みます。

医師にもそのように伝えました。そうでなくては・・・そうでなくては・・・・」

キコの目には大粒の涙があふれている。

「何の為に耐えて来たのか。何の為に我慢しているのか・・私にだって意地はあるし

プライドだってありますわ。毎日のように雑誌などでバッシングされるのは

辛い。辛いけど、でも、もう走りだしているんですもの。この子は育っているんですもの。

そしてこの子は2000年の歴史を背負っているんですもの。

私などの命より大事です」

「キコ」

宮は侍女長がいるにも関わらず、妻を抱きしめた。

「やれやれ」というように侍女長はため息をついて部屋を出ていく。

「ただ今、お茶をお持ち致します。ものすごく熱いのを」

 

「では、8月の中旬に入院をして9月の始めに帝王切開を」

医師は努めて淡々と言った。

皇室に前例のない帝王切開をするのに宮内庁の病院では

対応できない。

そこで、ユリ君が総裁を務める病院で出産する事にしたのだが

思った以上に費用がかかりそうな雰囲気だった。

皇族は健康保険がないので入院費・医療費は10割負担である。

最近も癌の殿下が入退院を繰り返しているのは、医療費負担を

少しでも減らそうとしているというような噂があった。

入院期間は3週間を超える。

「本当は今すぐにでも入院して頂きたいのですが」

そうは言われても、7月にはキコの弟のシュウが結婚するし

マコのホームステイも待っている。

そういった大きな行事が終わってからでないと動きがとれない。

自分が総裁職を務めている仕事も多い。

カコのお弁当も・・・・考えたらきりがない。

しかし、医師達としても相手が皇族であり、しかも、万が一

男子が生まれるとなれば責任が大きく、少しでもリスクを減らしたかった。

大出血をさせない為にはひたすら安静にしているのが一番なのだが。

「無理はしませんわ」

キコはにっこり笑った。

 

キコが前置胎盤である事はすぐにマスコミを通して発表され

天皇も皇后も驚き、とにかく無理はしないようにと伝言を伝えて来た。

また皇后は箱一杯のトマトジュースを送ったりしたのだが、

実は宮中ではそれどころではない騒ぎが起きていたのだった。

 

それが週刊誌に載ったのは6月も終わりの頃だった。

その内容は

「皇太子ご一家は7月中旬から葉山の御用邸で静養される」という話だった。

「両陛下の葉山静養もこの時期になり、実現すれば皇太子ご一家と両陛下の

水入らずの静養になる」

というもの。

それを読んだ千代田の侍従長は驚き、慌てて東宮職に連絡を取った。

「今回の両陛下の静養はお子様抜きでごゆるりとして頂きたいと思っている。

なのにどうして皇太子一家が入って来るんだ?」

侍従長から叱られるような形になった東宮大夫はいたくプライドが傷ついた。

そもそも今回の葉山行きはマサコが望んだものだった。

ヒサシの「両陛下のご機嫌をとれ」の一言で葉山静養を決めたのだ。

こうやって仲良しアピールすれば、オランダへ行く事に関して批判も

止むだろうという腹だった。

天皇と皇后が使うのは本邸、皇太子一家が使うのは付属邸だから

顔を合わせるのはそんなにないし、でも

砂浜で一緒に散歩する画を撮らせれば

東宮家にとってよいイメージになる。

その程度の考えだった。

しかし、千代田はそんな事はみじんも考えてはいなかった。

外国訪問を終えた天皇と皇后は誰にも邪魔されずに静かに過ごす

環境が必要だ。

皇后は疲れのせいで口内炎になったり首の痛みが悪化している。

「病気」の皇太子妃に気を使ったり、おとなしくしていられない内親王に会うのは

負担が大きい。

しかし、この「皇太子一家が葉山で静養」が記事になった為に、あたかもそれが

本決まりのような感じになってしまい、侍従長の怒りは頂点に達した。

もしかしたら、東宮職はわざと雑誌に静養予定をリークし、変更出来ない様に

画策をしたのかもしれない。

「私は何も知りませんでした。雑誌にリーク?どこの誰が?例えばうちの侍従長とか?」

「侍従長がやったのか」

「さあ。私のあずかり知らぬ事ですから。でもよろしいではありませんか。

今回の静養は皇太子ご夫妻が願っておられるのです。マサコさまが両陛下と

ご一緒してもいいとおっしゃるのは非常に大きな進歩ではありませんか」

「何を言っている。そもそも御用邸というのは両陛下のもので、両陛下のお許しが

なければ使えないのだ。今回の事は両陛下はご存じない。

お許しもなく御用邸に滞在など許されない」

「ではこちらから参りましょうか」

「今回は両陛下のみで静養して頂く」

侍従長のあまりの頑固ないいように、東宮大夫はかなりむっとした。

今の東宮大夫にとって怖いのは千代田ではなくオワダだった。

だから何が何でも「ご一緒に静養」は実現しなければならない。

そうでないと、オランダ静養についてマスコミがどんな批判的な記事を書くか・・・・

一緒に静養する事で「お墨付き」を得る必要がある。

「両殿下から直接お願いがあるかもしれません」

東宮大夫はそういったが、千代田の侍従長は聞く耳を持たなかった。

 

そして7月。

皇居では「ホタル狩り」が行われた。

久しぶりに天皇・皇后、皇太子一家、アキシノノミヤ一家、クロダ夫妻が

顔を合せ、皇居の庭で光を放つホタルを見る会が開かれたのだ。

緊張感半端ないヨシキを宮が相手してリラックスさせ、お茶やお菓子で

和やかに会話が続く。

アイコの相手はマコとカコが引き受け、3人で楽しそうに遊んでいる。

不思議とアイコはマコやカコと一緒にいるとパニックを起こす事はなかった。

「お姉さま。お体の方は大丈夫?」

サヤコが心配そうに聞く。キコはなんでもないというように首を振った。

「大丈夫よ」

「宮妃は軽く言うけれど、私だったら耐えられないわ。本当に気が勝る方ね」

うっすらと笑って皇后はそう言った。

自分もまた相当強情なたちではあったが、今、この段階で微笑む余裕はない。

それなのにキコは笑っている。

何事もないように。

少し、恐ろしくなった。

キコが産むのは男子ではないのだろうか。もし本当に親王だったら

皇太子はどうなるのか。

内親王があんな状態では・・・・しかし、絶対にそれは国民には言えない事実。

宮家の親王が将来の天皇になる。

そんな事があっていいのだろうか?近代に入ってからは全て皇太子の子だったのに。

旨をよぎるもやもやとした感情。

「お姉さまは本当は涙もろいのよ。私がお支えするわ」

サヤコはキコの手をとった。

「ありがとう」

「マコもカコもとてもいい子ね。お母様の為に色々我慢も多いでしょう。

時々はねえねの所にもいらっしゃいな」

サヤコはマコ達に声をかけ、二人もにっこり笑った。

「前置胎盤なんて大変ね。高齢出産だからなの?」

ぶしつけなマサコの問いかけに、キコは「ええ。多分」と答える。

「心配よね。私達、安心してオランダに行けないじゃない」

「申し訳ありません。こちらの事はお考えになりませんよう」

「マサコは自分が元気になる事だけを考えていればいいんだよ」

皇太子がいつになく優しく言い、あまりにも失礼な物言いに

宮がむっとして何かいいかけるのをキコが止める。

ヨシキも空気を読み、

「そういえば、妃殿下の弟さん、シュウさんの結婚式がもうすぐでしたね」

と話題を振った。

「参内した時は緊張したのでは」

シュウと婚約者は皇后の計らいで参内を許され、挨拶していた。

その時、キコは義妹になる人の為に服やバッグや帽子などをあつらえてやったのだ。

でもそのお蔭で「宮妃の弟君」はかなり箔が付き、結婚式まであと一週間なのだった。

「とてもいい方でしたよ」と皇后も言った。

「相馬の神社の方で。相馬と言えば野馬追いだったかしら」

「ああ、そうだね。有名だね。古来の馬を育てていてね」

と天皇も話に加わり、ひとしきり話に花が咲く。

 

アイコが眠そうなので、皇太子が「そろそろ」といい、夫妻が立ち上がる。

「お先に失礼するよ」皇太子はにこやかにみなにあいさつし、

そのついでに天皇に「葉山の件、ぜひよろしくお願いします」と言った。

その言葉に天皇は驚き、思わず

「侍従長から話が行ってないの?」と尋ねる。

「ええ。ですから両陛下とご一緒に葉山に行きたいという事で」

「ナルちゃん。今回はご遠慮して頂けないかしら。侍従長からそういう話が

言ってるでしょう」

「連絡ミスだったと聞いています。なので僕達が改めてお願いしたいと」

皇太子は食い下がった。

「別にお邪魔はしませんから」

「そうはいっても、侍従職の方から、今回は私達二人でと言われているから

東宮は別の機会にしてくれないか」

ここで、あっさり天皇が皇太子の言い分を聞いてしまったら、侍従長達の顔を

潰す事になる。それだけは避けたい。

「オランダに静養に行くのに、そお前にわざわざ私達と一緒に葉山へ行く

必要性もないだろうし」

その一言にマサコは突如立ち上がった。

みな、驚き固まる。アキシノノミヤはキコを庇うように両手でふさぐ。

「私がそもそもこんな風になったのはどなたのせいですか?

そうやって私達の事を全然わかってくれないからじゃありませんか。

せっかく、静養を一緒にしたいと思ったのに、どうして一緒じゃだめなんですか?

こっちが嫌だっていう時には来い来いって言っておいて、こちらが一緒に

って言ったら断られる。そんなに私達がお嫌いですか?」

「マサコ・・・」慌てて皇太子が止めようとする。

しかし、マサコは止まらなかった。

「私の妹が結婚する時には会っても下さらなかったのに、キコさんの弟さんは

特別なんですか?そうやっていつもアキシノノミヤ家ばかり大事にして。

何が前置胎盤よ。これで男の子だった私なんか用済みなんでしょ」

マサコはぷいっと横を向き、アイコを抱えるようにしてドアを蹴飛ばした。

ドアは勢いよく開いたが、控えていた女官達がびっくりしてひっくり返りそうになる。

「最低!」

捨て台詞を吐いて、マサコは走っていった。

皇太子が侍従のようにおいかけていった。

回りはただただ驚きで棒立ちになったままだった。

後日、天皇の皇后の葉山静養の中止が発表された。

 

 

 

 

 

 

 


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