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Channel: ふぶきの部屋
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韓国史劇風小説「天皇の母」37(フィクションだわ)

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ヒサシは少し追い詰められていた。

外務省における機密費流用の捜査が入りそうな気配だからだ。

これは自分ひとりでやった事ではない。

それぞれの思惑が重なり合って行って来た事だと思っている。

けれど、その一角が崩れた時、こちらにも相当な打撃があるのは間違いない。

かつて母が「こんなに貧しく生まれ、育った事に対する恨をはらしておくれ」と言った。

自分達の先祖が貧しかった理由・・・迫害された理由・・・それはほかならぬ日本にある。

日本は差別したのだ。大和民族と朝鮮民族を。

自分達の土地を搾取し、蹂躙しておいて何食わぬ顔で戦後を生きている日本人。

だからこそ自分は東大を出て外務省に入り、あちらこちらに気を遣いつつ

ここまでやってきたのだ。全ては母の「恨」を晴らす為に。

日本には自分と同じような思想を持っている人達が多々いるという事にも気づいた。

「日本が過去に犯した過ちは絶対に消える事はない。ゆえに日本は永遠に

謝罪し続け、補償を行わなければならない。それが人間としての道だ」

全くその通りである。罪は100年経っても消える事ではないのだ。

そんな論文を出したら「日本ハンディキャップ論」と言われてバッシングされた。

反日の徒だとも言われた。それでもいい。間違った愛国心などない方がいい。

しかし・・・機密費流用問題が表ざたになれば・・・

 

「オワダ君」

呼び止められて振り返ると、フクダラスオがにこやかな顔でこちらを見ていた。

彼の父親の秘書として活動した過去があり、ヒサシとヤスオは仲が良かった。

年下のくせに「オワダ君」などと呼ぶ、生意気な奴であるが仕方ない。

「何でしょう」

「あなたの所、娘さんが3人いたよね」

突然何の話だろうか?

「一番上の・・・」

「マサコですか?」

「ああそう。今、どうしているの?」

「アメリカにおります。ハーバードに」

「おお、それはご優秀な事だ。さすがにオワダ君の娘だね。ところで、そのマサコさん、

誰か決まった人はいるの?」

「・・・え?」

恋人とか婚約者とかいう話だろうか。

ヒサシはちょっと言葉に詰まった。

マサコ・・・本当にこの娘は・・・・

トラブルばかり起こすので日本の高校を中退させてアメリカに呼んだのはいいが

なかなか英語を覚えない。元々社交的な性格ではないし自己主張するような娘では

ないが、それではアメリカ社会ではやっていけない。

当然、孤立しがちになる。

それでも何とかハーバードに押し込んだ。自分がハーバードの教授をしている

コネを最大限に使ってラドクリフから編入させたのだ。

どんな入り方をしても卒業さえしてしまえば「ハーバード大卒」だ。

あの娘には学歴くらいしか誇れるものがない。

しかし、大学へ入っても聞こえてくる話はどこまでもネガティブ。

ボート部に入ったのに一度も練習に出ない。理由は「風邪を引いているから

湖の上にいたら熱を出す」

パーティに出れば壁の花。それだけならまだしも、結局その場にいる事が出来ずに

帰ってしまう。

成績も必ずしもいいとはいえない。そのくせ男遊びの方はかなりお盛んだ。

先日も「結婚したい人がいる」とかいい、男を連れてきたばかりだ。

卒業もしていないのに一体何を考えているのか。

無論、男とはその場で別れさせた。こちらが強気に出れば逆らう娘ではない。

だが、最終的にこの娘は一体何がとりえで何がいいのかさっぱりわからない。

出るところ出る所、何かと問題ばかり。

フクダはそんな状況は知るまい。

 

「決まった人はいないと思いますが」

「そう」

フクダハニヤリと笑った。何となく不気味である。

「マサコさんに絶好の縁談があるんだけど」

「え?」

「娘さんを皇太子妃にする気はないかい?」

「皇太子妃?あの・・皇太子妃は」

「いや、勿論次代の皇太子妃だよ」

「という事はヒロノミヤの?まさか。とんでもない。いくらなんでも無謀です。

皇室に嫁ぐ為には家庭の調査が入りますし、3代前までさかのぼれる家系で

ないといけません」

「そんなものはどうにでもなる。どうやら天皇もあと数年の命と見ている。次は

民主主義始まって以来初の天皇の即位。皇室を変えるならその時しかない。

言う意味わかる?」

それはつまり、皇室を廃止に持っていくということなんだろうか?

「マサコさんが皇室に嫁げば機密費流用で糾弾されることはないよ。どうだい?」

「それは・・・ありがたいお話ですね」

「なら、観測気球を飛ばしてみるか」

うちのマサコが皇太子妃?後の皇后になる?夢ではないだろうか。

しかし、それから暫くして、マサコは本当に「お妃候補」に上がってしまった。

こうなったらもう引き返すことは出来ない。

戦い続けるのみだ。ヒサシは腹を決めた。

 

 


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